福岡の探偵から見た世界3

【カルロス・ゴーン 31億円の脱出劇】の続きです。

 

意外な場所で出た『探偵』

仕事柄、私はニュースをよく見ますが、こと『探偵』というキーワードには敏感です。

それも、カルロス・ゴーンという、いまもっともホットな人物がらみで、『探偵』なんて単語を見るとは……と驚きました。

詳細はこうです。

ゴーン氏が保釈されたのち、ニッサン側が雇った東京の警備会社が、氏の自宅に張り付き、行動を監視していたそうです。

ゴーン氏はこれ気づき、弁護士(何かと話題になっている弘中氏です)を通じて、その警備会社を『軽犯罪法違反』と『探偵業法違反』とで刑事告訴すると表明しました。

それを受け、ニッサン側はすぐに監視を中止させました。そしてその日のうちにドロンされたわけです。

 

探偵業法とは

『探偵業法』とは、我々探偵・調査業者が、法にのっとった仕事をするよう定められた法律です。

施行されたのは2007年6月1日。気づけば、もう、13年も前です。

探偵が届け出制になり、その管轄が公安委員会(警察署)と聞いたとき、私は「これでやっとライセンスでも発行されて、探偵も社会的に真っ当な仕事として認められる」とトキメいたことを覚えています。

まあ実際は、好き勝手やりたい放題だった悪徳探偵をけん制するための、ただのメンドウな規制法だったわけですが……。

今回の件が、探偵業法の何に違反していたのかは不明です。ただ、報道をそのまま受け取るのなら、監視を実施していたのは『警備会社』であって『調査会社』ではありません。

ようは、正規に登録された調査会社ではない業者が、尾行や張り込みを実施していたことに対しての告訴ではないかと推測されます。

そもそも、相手が大物経営者とはいえ、この監視体制がすっかりバレていたことに問題があります。

ゴーン氏によると、自宅周辺に張り付かれたり、外出を尾行されたりしたということですが、もう少し上手くやれなかったのかな、というのが探偵としての私の本音です。

 

もし探偵だったら

そもそも、警備会社と調査会社はまったく性質が違います。

警備会社はものものしい制服を見てわかる通り、警察のように周囲を威圧しながら仕事をしています。周囲に同化し、バレないように仕事をすることに慣れていないわけです。

おそらく、ゴーン氏の尾行・追跡では、GPSも使えなかったはずです(使っていたらすぐに発覚し、そこも弁護士に厳しく突っ込まれていたはずです)。

長期に渡る無理な監視体制はすぐにゴーン氏側にバレ、刑事告訴ということになったのでしょう。

もしこれが、正規の調査会社だったら、と思わずにはいられません。

ゴーン氏は、監視が中断されたのち、自宅を出て、堂々と新幹線に乗って関西空港へとおもむいたそうです。

ヘリやプライベートジェットだとさすがに無理ですが、新幹線の移動であれば、探偵なら追跡できます。(というか私も日常的に新幹線での尾行はやっています)

世間をアッと言わせた極秘裏の脱出劇。しかし探偵なら、見事それを追跡できていた……仮定ではありますが、なんともロマンのある話ではないでしょうか。

 

どうして警備会社?

ニッサンサイドが、どこの民間警備会社に依頼していたのかは不明ですが、おそらくはそれなりの規模の会社じゃないかと推測されます。ニッサン自体が一部上場企業だからです。

原則として、法人は法人相手にしか大きな仕事を出せません。規模の大きな会社ほど、取引先は同程度のランクであることが求められます。

(そしてこれが、『下請け』『孫請け』体制という、非効率極まりない日本式中抜き構造の温床となっています)

この監視体制は長期間で24時間体制だったそうですから、かなりの金額が動いたと思われます。もちろんそのカネは、ニッサン上層部のポケットマネーではありません。ニッサンの予算として計上されたはず。

『決済』上の問題から、それなりの規模の法人にしか仕事を依頼できず、そして探偵・調査会社でそのニーズに応えられるだけの資本と素性のしっかりした株式会社は皆無だった……というのが私の推論です。

だからこそ、警備会社としては分野違いでもある『尾行・張り込み』を長期間やることとなり、そしてゴーン氏サイドにそれが発覚してしまったのではないでしょうか。

 

法人の依頼と調査員とのミスマッチ

法人は法人相手にしか仕事を出せず、法人にはまともな調査会社がない。そして、本当に腕のいい探偵の多くは個人で仕事をしており、法人のニーズとその調査力との間にミスマッチが起きている。

これが、調査業界の抱える宿命的な問題点のひとつなのです。

私自身、これまでも何度も法人がらみの仕事を受けてきましたが、それは間に『法人の仲介者(エージェント)』が入るか、社長や役員といった立場のひとから『個人として』依頼を受けるのみです。

今回のゴーン氏の、監視体制を退けた後の電光石火のトンズラ劇。私のように、「自分だったら追跡できたかも……」なんて自負する調査員が日本中に居るかもしれません。

そんな名もなき探偵たちが集められ、ドリームチームを結成し、警備会社が抜けた穴を密かにふさぎ、関空まで追跡出来たとしたら。

探偵として、生涯で一番の大仕事になったかも、なんて思いを馳せたりもします。

とはいえ、ゴーン氏に同行していたのは、かのアメリカ陸軍特殊部隊『グリーンベレー』に所属していた軍人だそうで、そんなおっかないチームとお近づきになることを考えると、関わらなくて大正解というのが、この話のオチです。

 

※2020年1月16日追記

ニッサンサイドが依頼した警備会社が判明しました。日本シークレットサービスという「日本初のVIP身辺警護専門の会社」という触れ込みの、元警察官が社長を務める会社だそうです。

やはり、HPのどこにも調査会社とも探偵業法届出済とも記載はありません。

むしろこの会社の専門とする業務は、ゴーン氏サイドが雇うべき職域だったのではという気がします。

元警察関係者が興した調査会社は、警察関係者とのコネ次第では、ある方向においてはとても有力ですが、私の知る限り、隠密行動や人目をしのぶ調査、慎重な尾行・張り込みは苦手である傾向が強いです。(警察の仕事のやり方を考えれば、しごく当然なのですが……)

 

 

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