隔絶した世界で

本日、3月11日は東日本大震災から五年目にあたります。

五年前の震災の日。その日もまた、私は行動調査の最中でした。

 

大震災当日の調査

様々な事情から十分なバックアップ態勢が用意出来ないまま開始する事になった、困難な行動調査でした。一瞬の油断や気の緩みが失敗に直結する状況です。

おまけに、ただでさえ厄介な高速道路での尾行を福岡から200キロ以上続け、疲労困憊していました。

目の前の対象者を見失うことなく追跡し続ける。その時の私の頭の中にあったのは、ただそれだけでした。

22時を過ぎて、調査対象者がサービスエリアのレストランに入り遅い食事をとり始めました。

対象者の姿を良く見通せる場所だったので、ようやく私も一息つく事が出来ました。

ふとそこで、異様な雰囲気に気づきました。

誰もが不安げな表情で立ちすくみ、食い入るような顔でテレビを見つめています。何か、普通じゃない事態が起こっているということを肌で感じました。

14時46分の地震発生から約8時間後。その時、初めて日本の異変に気づいたのです。

 

東日本大震災

テレビでは、地震のニュースを流している事だけはすぐに分かりましたが、情報は錯綜し、全容は掴めません。

津波や原発といった普段は耳慣れないような単語が次々に飛び交っていました。

しかし、目の前に、この後どう動くかまったく分からない対象者が居て、ちょっとでも見失ったら調査はすべて水の泡になるような状況です。

その日、そこまで半日以上調査を続行していましたが、重要なのはどれだけやったかではなく、最後までやれるか、でした。

ニュースの内容は非常に気になりましたが、そちらに意識を集中させる事が出来ませんでした。

何かとんでもない事が起こっている、と肌で感じながらも、意識の大部分を調査対象者に集中させていました。

やがて、食事を終えた対象者が車に戻りました。私もすぐにその後を追いました。

未曾有の大災害が起きた日だというのに、この時の調査対象者は、まるで別の世界で生きているように無関心でした。

そんな対象者の行動を追跡し、完全にペースを合わせて動いていた私もまた、世界から隔絶されたような感覚でした。

 

行動調査という別世界

ある意味で、行動調査というものは、調査対象者の世界に没入し、その意識と行動を共有するような性質があります。

行動調査中の探偵にとっては、歴史に残る非常事態も、まるで別世界に起きた出来事のようでした。

深夜、対象者が宿泊場所に入ったのを見届け、ようやくその日の調査を完遂した私は、すぐさまテレビで、ラジオで、夕刊で、インターネットで情報をかき集め、やがて「東日本大震災」と呼ばれる事になる災厄が日本を襲った事を改めて知ったのです。

隔絶された世界の中で、私はただひたすら対象を追い続け、映像を記録し、一心不乱に調査を全うしました。

もし、大震災の発生が西日本で、調査の最中の私がそこに居合わせたら。

私は、調査を中断し、現場を放棄し、プロとしての使命感よりも自分の身の安全を選べるだろうか。

私は、目の前の調査対象者を追跡し続ける事よりも、家族や友人、知人の安否の方に意識を向けられるだろうか。

探偵としての私は、大震災の中で何を選び、どのように動くのだろうか。

答えは出せません。その時になってみないと分かりません。

あの日、震災の現場では、様々な葛藤があり、選択があり、逡巡があり、決断があった事でしょう。

犠牲になった方々に心より哀悼の意を捧げます。

 

もり探偵事務所は、尾行・証拠撮影に特化した福岡県の【行動調査専門】の私立探偵です。