福岡に住んでいる人間にとって、夏の風物詩と言えば「大濠公園花火大会」でしょう。

【西日本大濠花火大会】というのが正式名称ですが、45万人もの人が集う一大イベントです。

私も何度も行きましたが、探偵を開業して以来、プライベートで行った事は一度もありません。行く気にもなりません。

「花火大会の調査」という正直言ってイヤな部類の仕事のせいです。

身動き取れないほど人でごった返すので、対象者に警戒心が無くなるのは良いのですが、その反面「見失ってしまう危険性」が格段に上がります。

花火が上がり始めると、人の姿は闇に浮かび上がるシルエットになり見分けがつかなくなります。顔の確認もできません。

誇張抜きで、ほんの数秒目を離しただけで対象者の姿が消えてしまう……と言う事が多々あるのです。

チームを組んで調査をしていても、花火大会のような場所で調査員同士が連絡を取り合ったり、アイコンタクトして連携を取るような動きは大変目につきます。

そんな訳で、花火大会の時の探偵は、背後霊のように対象者の真後ろにピッタリと立ち、対象者のシルエットから目を離さないまま、空を見上げているフリをする…という非常に疲れる芸当を強いられます。

せっかくの花火も見られず、気を張りながら対象者の後頭部をひたすら鑑賞する花火大会になってしまうのです。

九州各地で開催される花火大会のリストを見るだけで、「あの時も大変だった」「この時も辛かった」と記憶が思い起こされます。

その中でも、最もロクな思い出が無いのが「大濠公園花火大会」です。正直、こうして名前を記すだけでもなんだか吐き気がしてきます。

今から10年ほど前、福岡市中央区天神近辺のオフィスで働く対象者を調査していた時の事です。

仕事が終わった後の対象者が、突然大濠公園の花火大会に向かいました。

毎年8/1に開催される大濠公園花火大会は、日曜とは限らず、平日に開催される事もあります。

福岡都心部開催というアクセスの良さもあって、平日の仕事終わりに気軽に足を運ぶ人が多い花火大会なのです。この時もまさしくその通りでした。

「突然花火大会に行く」というまったく予定になかった動きをされたとしても、それが理由で調査を失敗する事はありません。

しかしこの時は、途中で接触した人物がなんと自転車だったのです。

2人は「自転車の二人乗り」で大濠公園を目指し始めました。こんな動きはまったく想定外でした。

当然、自転車なんて用意していません。道路は非常に混んでおり、車両のバックアップも役に立ちません。

意外に思われるかもしれませんが、足に自信がある人であっても、徒歩で自転車には絶対に追いつけません。

ママチャリですら徒歩の4倍ほどの速さが出る上に、疲労度がまったく違います。 自転車には自転車でしか追いつけない。これが探偵の常識です。

ただ、この時は相手が二人乗り(イケマセン)だった事や、花火大会に向かう人でごった返していたせいか、ギリギリのところで追いかけ続ける事が出来ました。

成功の代償として、真夏の蒸し暑い夕方に、約三キロの距離を全力で走って自転車を追いかけるハメになった訳です。

私も今より若かったとはいえ、なんとか大濠公園に辿り着いた時は全身から汗が吹き出し、ノドは腫れ、目まいがしてフラフラ。吐きそうでした。

その後も、人混みの中で美味そうにビールを飲みながらウロウロする対象者と接触者を、吐き気をこらえた青い顔でフラフラと追いかけ続けました。

もう花火大会なんてウンザリだ、と心底思いました。

そんなこんなで、夏の風物詩である花火大会に「プライベートで」行く事は無くなりました。

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