パソコン画面の盗撮

極めてプライベートな場所であるパソコンの画面。

社外秘のプロジェクト、企業秘密である資料、プライベート写真、銀行・クレジットの決済画面もあれば、愛人とのメールのやり取り、SNSに書き込みした誹謗中傷と、他人には決して見せられない秘密が盛りだくさんです。

もし、このパソコン画面を外部から盗撮するとしたら、どんな方法があるでしょうか?

ひとつめは、いわゆるハッキング。ネットワーク経由でパソコンに侵入し、表示された画面を見るという手段です。

ふたつめは、物理的なのぞき見。すぐ後ろからコッソリ画面をのぞくという原始的な方法から、盗撮カメラを画面が見える位置に設置する手口、遠く離れた場所から望遠鏡で窓越しにのぞく手段まで色々あります。

そしてみっつめ。それが、今回語る【TEMPEST(テンペスト)】。漏洩電磁波を利用したパソコン盗聴技術です。

 

テンペスト

パソコンに詳しい人間でも意外に知らないこの「テンペスト」。そもそもは、大嵐や暴風を表す英単語です。

おおげさな名を冠するだけあって、非常に危険かつハイテクノロジーなトンデモスパイ技術です。

その歴史は古く、まだインターネットどころかパソコンの一般普及すらされていない1960年代、かのアメリカNSA(国家安全保障局)がこの技術の実現性と危険性に気がつき、研究を始めたのが発端とされています。

ちなみにテンペストと名付けたのもNSA。

そもそもは漏洩電磁波を遮断する技術規格(つまり防諜、防ぐための技術)をテンペストというコードネームで呼称していたのが、いつのまにか盗聴行為そのものを称するようになった経緯があります。

 

漏洩電磁波による盗聴とは

では具体的にテンペストとはいったい何か。何がどのように危険なのか。

ここは理工系ブログではなく探偵のブログなので、専門的な用語解説ではなく、ざっくりわかりやすく説明します。

パソコンを始め電子機器は、微量の電磁波を発生させています。生き物に体温があるようなものです。そしてこの電磁波は、ガラスやコンクリートなどほとんどの物質を通り抜けるため、強力なアンテナによって感知することが可能です。

パソコンのディスプレイが放出する電磁波を、特殊なアンテナで受信・解析し、表示されている画面をそっくりそのまま別のモニター上で再現する……これが【テンペスト】です。

にわかには信じられない話ですが、狙ったパソコンに指向性のアンテナを向けるだけで、手元にあるディスプレイにそのパソコンと同じ画面を表示してしまうわけですから、なんとも恐ろしい話です。

おまけに、その有効距離は直線距離で最大100メートル程度。

途中に壁や人や物があれば多少は電波も弱くなるでしょうが、隣の部屋どころか、隣の建物からでも充分捉えられるほどの距離です。

 

テンペストの恐怖

この恐ろしさをものすごく雑に例えるなら、ある部屋に居る人物の体温を検知し、壁やカーテン越しであっても、遠くからその人物のハダカをのぞけてしまうようなものです。

何よりも、遠くで電波を傍受するだけなので、絶対に足がつきません。つまり気づきようがないわけです。

これがハッキングであれば、どんな凄腕ハッカーであっても、オンライン上の侵入路が必要で、必ずそこを通るゆえに多少なりとも痕跡は残りますし、そもそもネットワークのないパソコン(スタンドアローン)には絶対に入れません。

後ろからのぞくとか盗撮カメラを仕掛けるといったアナログ手段も、カメラを仕掛ける必要がありますし、視界を遮ればシャットアウトできます。もちろん証拠もしっかり残ります。

しかし、テンペストは、自然に発している電波を遠くから受信するだけなので、そもそも狙われた側に「被害にあっている」という自覚がありません。足がつくどころか、盗聴の存在自体に気が付かないわけです。

だいたい、多くの人間が、モニターを始めとする目の前の電子機器が、常時電波を発していることを深くは考えません。しかもその電磁波を受信して画像を再現するなんて発想が、そもそもないはずです。

だからこそ、日本国内でこのテンペストが多少なりとも話題になるようになったのは、2001年頃になってからでした。

アメリカが電磁波盗聴の危険性に気付き、研究を始めたのが1960年頃ですから、なんとも悠長な話です。

 

日本での告知

ハイテク調査(ドローン編)】という記事でも書きましたが、テクノロジーの進歩は軍事利用ありきです。

このテンペストも、元々は軍事テクノロジーとして東西冷戦時に暗躍していたとも聞きます。

実は、日本でもその存在は一部から危険視されていましたが、軍事機密として扱われ、防衛庁や一部の軍需産業にのみ存在が知られていたそうです。

そんなテンペストが民間にも知られるようになったのが2001年頃の、とある新聞記事でした。

もり探偵事務所が開業したのが2000年ですから、その当時の、まだホームページビルダーで自社サイトをなんとかかんとかこねくり回して作っていたくらいの時期に、テンペストは紹介されたわけです。

国内にも、当時、すでに独自にこのテンペストを研究していた独立行政法人がありました。

NICT(国立研究開発法人情報通信研究機構) です。 (同所サイト)  (Wikipedia)

NICTは、電磁波研究、ネットワーク研究、サイバーセキュリティ研究など、5つの研究所、10のセンター、3つ部門を有する高度な研究機関です。

最先端の情報通信技術の研究を行っており、テンペストに関する専門的な説明もされているので、興味のある方はリンク先のサイトやWikipediaをじっくりご覧になってみては、と思います。

 

テンペストの現実

理論的には、モニターやキーボードやマウスなどの電子機器は電磁波を出していて、それを受信し解析・出力することによって情報を収集できるのだとして、それを実現するために必要なものはなにか。

そもそも個人レベルで可能なのか。自分に対する現実的な危険性はあるのか。防ぐ方法は?

個人としては、これらが気になる点だと思います。

そもそもテンペストが誰でも可能な、そして誰もが標的となり得る汎用的な技術であれば、もっと話題になり、その対策が講じられるべきでしょう。

パソコン用品店に、「テンペスト対策グッズ」がもっと大々的に売りに出されていてもおかしくありません。

結論から言うと、テンペストはあくまで『理論上可能な技術』であり、一般人が標的になるケースは非常にマレです。

ただし、先に話した通り、足がつきにくく、理論的にはまずバレない盗聴技術であるため、いつのまにか情報が抜かれていても本人は気づかず、表沙汰になりにくいということも考えられます。

そこで、現実的に行われるものとして、もう少し詳しくテンペストの内容について触れてみます。

 

テンペストの防ぎ方

テンペストを防ぐ唯一の、そしてもっとも簡単な方法は、『電磁波の遮断』……これに尽きます。

電子機器が発する電磁波のみを受信し盗聴する技術ですから、これさえ遮断すればまったく意味をなしません。

電磁波遮断グッズや、そもそも電磁波を限りなく表に出さない電子機器なども売られていますから、これらを使えば、ほぼテンペストは対策できるでしょう。

また、壁や物を通り抜けるとはいっても、しょせんは電波ですから、壁や物に厚みがあるほど減衰して弱くなります。

壁の多い建物や、高いマンションの一室であれば、限りなく危険性は減少するでしょう。

 

テンペスト実行のための機材

ではテンペストを個人レベルで実現可能か。

NICTが研究用としてアメリカから調達したテンペスト機材は、『1億円』くらいだったという話です。

さすがに民生品レベルでそれは大げさでしょうが、テンペスト用の機材を個人で用意しようとすると、かつては50万~100万円くらいかかったそうです。

しかし、電子機器の発達と廉価化により、現在ではさらに安価で専用機材を揃えられるという話も聞きます。仮に30万円~くらいだとしたら、個人でも用意は可能でしょう。

 

まとめ

ここまで記事を読まれた方は、そもそも【テンペスト】という名前をご存知だったでしょうか?

私の感覚では、決して一般に浸透している単語ではありません。それは、危険度が低く、被害も少なく、それほど多用されていないからかもしれません。

とはいえ、こういう話もある、というネタとしては興味深いと思います。

理論的には、電磁波さえキャッチできれば様々な情報を抜き出せますから、モニターだけでなく、キーボードの打鍵音から入力したキーを解析されたり、マウスのカーソルの軌跡とクリック音から、画面上の操作を把握されたりも可能なのです。

それらはいくらでも応用がきくでしょう。

また、ATMも電子機器の一種であり、ボタン操作しますから、テンペストを悪用すれば直接のぞき見することなく、遠距離からパスナンバーを簡単に抜かれてしまいます。

特に銀行のATMはたった4つの数字ですから、解析は容易でしょう。

それが、妄想や架空の話ではなく、現実的な技術として実在するのです。

 

もり探偵事務所は、尾行・証拠撮影に特化した福岡県の【行動調査専門】の私立探偵です。