2019年の探偵志望者へ

10月1日はもり探偵事務所の開業の日でした。

今からもう19年も昔、福岡市の南区で私立探偵事務所を開業した日のことは、つい先日のように鮮明に覚えています。

自分の名前を冠した探偵事務所を開き、探偵一本、腕だけで食べていくことは私の少年の頃からの夢で、そのために大学でも法律を学びました。

いざ開業したとき、夢を叶えた興奮や満足感はそれほどなく、比較的冷静で、落ち着いた気分だったのが我ながら不思議でした。

開業はしょせんただのスタートラインでしかないと、本能的に感じていたからかもしれません。

この19年の間に立ち上がり消えていった探偵事務所、調査会社は数えきれないほどあります。

いま福岡で営業している探偵・調査事務所にしても、半数以上はその頃になく、顔ぶれもずいぶん変化しました。5年後、10年後もきっとまたそうなるでしょう。

 

四人の志望者

さて、今の時期に、何かしら不思議な縁でもあるのか、九月は珍しいことがありました。

ひと月の間に、四人もの探偵志望者が私のところに連絡をしてきたのです。

以前【ふたりの志望者】という記事を記しましたが、長く探偵をしていると時々こういう連絡が来ます。

特にうちは、「森がやっているもり探偵事務所」という福岡でも(そして業界でも)珍しい部類の、個人名の私立探偵です。キチッとした名称の大手の事務所に比べれば、電話をかけやすいという理由もあるのかもしれません。

この探偵ブログを書くにあたり、ニュースや時事ネタ以外の内容では、直近のことを書くのは控えるというのが私の自己ルールです。

しかし、せっかく連絡をくれた探偵志望者の四人が、(結局、誰も採用はしていませんが)もう一度このブログを読んで、何かしらのメッセージを受け取ってくれればと思い、今回の記事を記します。

「あきらめずに探偵の道を志します」という志望者も中には居たからです。

いつもにもまして偏った内容なので、ここから先は、探偵に強く興味がある方だけ読んでください。

 

探偵に必要な要素

もり探偵事務所では現在新規採用を行っていません。

とはいえ、かつての若き日の自分のように「探偵になりたい」と決意し、探偵事務所に電話するという具体的行動を起こした人にはシンパシーを感じます。

行動力だけでは探偵になれませんが、それは探偵に必要な要素のひとつではあります。

お断りをした志望者のひとりに、「探偵に必要なモノ(要素)ってなんでしょう?」と聞かれました。

なんだろう、とふと考えました。ふだんそういうことを聞かれることも、考えることもあまりないので、すぐには答えられませんでした。

 

現実的な話

現実的な話をするのなら、とにかく【資金】はたくさんあるに越したことはありません。開業資金も運転資金も生活資金もです。

あいにく私はそのどれも満足にありませんでしたが、その代わり開業してすぐに、大きな仕事を立て続けに受ける機会に恵まれました。

それが運が良かったというのなら、もちろん【運】も大事な要素でしょう。

それから、【スキル】。運転技術や、撮影技術、張り込み・尾行といった追跡テクニック。探偵にとって基本的な要素です。

しかし、多くの場合、探偵のスキルは現場で身に着けていくものです。

 

探偵学校とスキルとセンス

かつて『探偵学校』というものがありましたが(今もあるかもしれませんが)、そこで学べるのはほんの一部で、卒業したから探偵としての素養が身に着くというものでもありません。

現役の探偵で、探偵学校に通っていない人間は数多いですし、逆にプロの探偵になれなかった探偵学校卒業生も無数に居るでしょう。

私がこれまでに見たところ、プロの調査員として生き残れるタイプには、この【スキル全般】に関して、最初から明確な【センス】があります。

残念ながら探偵業界は、失敗しながら覚えたり、上司や先輩に育ててもらったり、ミスを繰り返しながら成長したり、という悠長な業界ではありません。一件一件の依頼が真剣勝負です。

成長が遅いタイプ、熱意だけでセンスに欠けるタイプは向いていないのが残酷な現実です。

 

ミス=致命傷の世界

特に自分で開業した探偵は、たった一度のミスすら致命的となります。

依頼人は、完全無欠のプロとして探偵に依頼するのであって、「新人の探偵さんですか? この失敗を糧に次から頑張って」なんてことは絶対に200%あり得ません。

実は、私は開業して最初の数年は、まったく失敗をしませんでした。浮気調査の成功率、実に100%です。

若く、生意気だった私は、自分がブラックジャックやゴルゴ13にでもなったような気分でした。

しかし、そんな私にも、初めて失敗した日がきました。ベテランになった今振り返ってみても、誰がやっても厳しい案件だったのですが、失敗は失敗です。

依頼人様ご本人は「難しい調査だったから仕方ないですよ」と同情してくれましたが、私を「凄腕の探偵だ」として紹介した仲介人は激怒し、「依頼料金全額返せ!」と激しいクレームをぶつけてきました。

今だからこそ断言しますが、失敗したからといって依頼料を全額返金するような探偵・調査会社はまずあり得ません。

ビジネス的に、そんな対応をする業種はありませんし、そんなことをしていては経営は成り立ちません。そもそもどこの探偵事務所・興信所も、そういう形にならないよう上手く契約します。

しかし、当時の私は、初めての失敗に対する自己嫌悪、せっかく紹介してくれた人の顔を潰した負い目、そして何より依頼人様に対する申し訳なさで、全額を返金しました。

よその調査事務所のやり方や、業界の慣習、ビジネスというものの一般常識をよく分かっておらず、過分なほど失敗に対して責任を負ったわけです。

さいわい、その後、失敗らしい失敗はほとんどなく、私は探偵を続けることが出来ましたが、もしこんなことが立て続けにあったとしたら、とっくの昔に看板はたたんでいたことでしょう。

 

探偵に必要な三要素

こんな風に言ってしまうと、探偵に必要なものは、「金」「運」「センス」と、まるで夢のない話になってしまいます。

実際、これらは、どれかひとつでも並はずれて持っていれば、結構上手くいけてしまうものではあるのですが、希望に燃える探偵志望者に「お金ある?」だの「上手くいくかは運だねえ」だの「才能がすべてだよ」なんて言うのはあまりにあんまりかと思います。

そこで、違う方向からアプローチしてみます。

探偵に必要な要素。それは現役の探偵に聞くのが一番でしょう。副業もせずに五年以上生き残っている探偵ならば、この問いに答える資格はあると思います。

あいにく探偵の協会・団体などに所属もしておらず、独立独歩で、横のつながりの希薄な私には、大勢の探偵から集計を取ることは出来ません(私のブログに登場する同業仲間は、そのほとんどがすでに引退した探偵です)。

おそらく、探偵によってそれぞれ別のことを言うでしょうから、私は私の考える答えを出します。

探偵に必要な要素。それは「行動力」と「粘り強さ」そして「慎重さ」というのが私の持論です。

 

矛盾した存在

常々思いますが、探偵というのはまったく矛盾した存在です。

行動調査ひとつとっても、「バレないように距離を取ること」「確実に動きを押さえるため接近すること」は、完全に相反する矛盾した行為です。

私の考える私立探偵の三要素(それはつまり私自身が持ちえたから今日まで生き残れたと自覚する能力です)である、「行動力」「粘り強さ」「慎重さ」もまた、それぞれが矛盾したモノなのです。

 

行動力

探偵にとって必要不可欠なモノで、三つのうちどうしてもひとつだけ取れと言われたらこれを選びます。

実際、探偵業界の現役の調査員でも、最低限この【行動力】だけは持ち合わせているという人間がほとんどです。

張り込みも尾行も撮影も、「出来ません」「やりたくありません」じゃ話になりませんから、当然と言えます。

 

粘り強さ

探偵はいざというときの機動力が何よりも大事な反面、その瞬間以外は息をひそめ何時間でも待ち続けなくてはいけません。

一日の調査で、追跡や撮影といった動的な時間は一時間にも満たなくて、その他の待機時間は十時間くらい……ということもザラです。

繁華街での立ち張りだろうが、車中での張り込みだろうが、相手が動くまでとにかくじっと待ち続けなくてはなりません。

しかもその間、本を読んだり、スマホをいじったりして気を散らしては、肝心な動きに即時対応出来なかったりもします(現役の調査員ですら、居眠りしたりスマホに夢中になって動きを見落としたりということがゼロではありません。特に多人数でチームを組む場合などその傾向があるようです)。

狩りをする肉食獣のように、狙撃するスナイパーのように、待機はただボンヤリ時間を潰す時間ではなく、スタンバイ状態を維持した臨戦態勢なのです。

弓を引き絞ったまま長時間待つみたいなものですから、それがいかに大変かは分かると思います。

 

慎重さ

三要素の中では、軽視されがちな要素です。特に規模の大きな調査会社・興信所ほど、ないがしろにしているのが実情です。

慎重さというのは、つまりは「調査対象者にバレない」「まわりに警戒されない」ために必要な要素ですが、行動力と真っ向から相反するため、その両立はとても難しいです。

わかりやすく言うと、バレないようにとビビッていたら、肝心な局面で動きに対応出来ず、尾行で見失ったり、撮影に失敗したりします。

大量の案件をこなさなければならない大手や、面倒くさいのが嫌いな探偵、バレても誤魔化せる自信がある強気な事務所などは、いちいち「バレないように慎重に」とは考えません。効率が悪いからです。

かつてとある全国チェーンの調査会社の調査員から実際に聞いた話だと、「バレないように慎重にやっていて見失いました」と「追跡は完遂しましたが露骨に接近しすぎて警戒されてます」とでは、前者のほうが圧倒的に失点になるそうです。

前者はごまかせないが、後者のほうはいくらでもごまかしがきく、という理由からでしょう。

実際に依頼人から「バレてますよ!」とクレームをつけられることも多々あったそうですが、「こちらの落ち度でバレたという証拠でもありますか?」と強引に抑えつけるらしいです。

 

まとめ

最後に業界のイヤな話を少ししましたが、全部が全部こうではありません。大手だろうが個人だろうが、問題がある人はあるし、優秀なひとは優秀です。

しかし、こと私のように、会社という大きな看板に身を隠すことが出来ない私立探偵にとっては、むしろ最も重視しなくてはならないのは【慎重さ】かもしれません。

とはいえ、慎重で思慮深い人間は行動力に乏しく、行動力のある機敏な人間は忍耐力に欠け、忍耐力のある図太い人間は慎重さが足りない傾向があります。

そのどれかがあるだけでも調査員としては合格ですが、残念ながら並と言わざるを得ません。

サラリーマン探偵としては充分通用しても、自分の腕で稼ぐ私立探偵として生き残っていくには不十分です。

そういうわけで、私は、矛盾した存在であることが求められる面倒な個人探偵を他人には勧めません。

「探偵になりたい。どうしたらなれますか?」という質問に対しても、「私立探偵はシンドイですよ。オススメしません」と答えます。

実際に、九月度に探偵志望として連絡してきた四人に対しても、そう答えました。詳細な理由は伝えませんでしたが、代わりに今ここで記しました。

もし、今回ここに挙げた、探偵にとって必要な要素【資金】【運】【センス】のどれかだけでも、たっぷり持ち合わせてるという自信があるひと。

もしくは、【行動力】【粘り強さ】【慎重さ】のすべてが備わっている奇特なひとであれば、本気で私立探偵を目指してもいいかもしれません。

19年探偵を続けてきて、もし誰かに「おまえのその時間に後悔はあるか?」と問われたら、

「いいえ。私は私の選んだ探偵の道に後悔はありません」と答えるでしょうから。

 

もり探偵事務所は、尾行・証拠撮影に特化した福岡県の【行動調査専門】の私立探偵です。