役所のバグ

勝手に婚姻届を提出され、しかもそれが受理されてしまい、自分の知らないところで結婚したことになってしまった男性の話がネットで話題になっているようです。

「勝手に婚姻届」実は珍しくない? 役所が受理したときの対処法は(2019年10月27日)|BIGLOBEニュース

どことなく喜劇的な要素も感じられるトンデモ事件ですが、ことは深刻です。

手続きの性質上、婚姻届が受理されてしまうと、法的な婚姻関係が成立してしまい、戸籍にもちゃんと「婚姻歴」として記載されてしまうからです。

たとえ「一度も異性と交際したことがない」という清い体のひとであっても、データ上は「結婚歴アリ」になってしまうのだから、恐ろしい話です。

 

婚姻届の受理

実は婚姻届は、夫婦となる男女がふたり一緒に提出しなくても、必要事項がすべて記載され、不備がなければ受理されます。

提出する役所も、『居住地(住んでいる場所)』に限らず、『所在地(一時的に滞在した場所)』にある所で構いません。(中にはハネムーン先やふたりが出会った旅先で届けを出すカップルも居るくらいです)

ここに、役所のバグがあります。

つまり、戸籍が変わるほどの重大な書類にも関わらず、様式さえクリアしてあれば、夫か妻のどちらかにその意志がなくとも(あるいはその事実すら知らなくても)提出は可能であり、一度受理されたらそこで機械的に婚姻が成立してしまうのです。

ネット上で話題になっている男性もそんなひとりだったようで、「これバツイチになってしまうの?」とすっかり困惑してしまったようです。

 

バグを利用する探偵

私より前の世代の探偵(というより『興信所』という名称のほうがしっくりくる先輩方)の時代は、かなりムチャな調査が当たり前に行われていました。

今となっては、『伝説』とか『おとぎ話』の趣さえある昔話です。

その当時、横行していたのが、「本人のフリをして書類を役所に提出し、住民票や、戸籍謄本、附票、納税記録なんかを勝手に取得する」というものでした。れっきとした犯罪『文書偽造』です。

一番多く用いられたのが「本人へのなりすまし」で、次が「勝手に『代理人』を自称する」という手法です。当時の探偵たちは、このデータ調査が一番手っ取り早く楽に金になると豪語していたようです。

長時間張り込んだり、地道に追跡したりといった『行動調査』に比べて、役所に赴いて書類をちょこちょこっと細工して提出するだけという調査は、たしかにある種のひとびとにはイージービジネスだったことでしょう。

時折、不審に思った役所の窓口担当が、本人確認を求めたりすることもあったそうですが、そこは押しの強さと迫力で押し切ったようです。

当時の探偵は今にもまして強面が多く、役所の人が「あの、ちょっと確認したいのですが……」などと言いだそうものなら、役所中に響くほどの大声で「おまえ、なんか文句あるのか! おおう!?」と騒ぎたて、相手を威圧したといいます。タチの悪い話です。

もちろん今ではこんな真似はできません。平成20年に住民基本台帳法と戸籍法が改正され、「なりすましと文書偽造対策」として、窓口での本人確認が強化されました。

こんな法改正がなされたのも、ひょっとしたら、いにしえの探偵たちが全国各地でムチャクチャやりすぎたせいなんじゃ……とも思ってしまいます。

 

婚姻届けの受理

個人情報の宝庫である、他人の住民票や戸籍等を勝手に取得することは厳しく規制されましたが、『婚姻届』という幸せいっぱい夢いっぱいの書類に関しては、今でもそこまで厳しくありません。

そもそも、「配偶者の欄に他人の名前を勝手に書いて婚姻届を提出するサイコパスが存在すること」自体、まともな人間の常識の範囲外ということもあるでしょう。

とはいえ、様々な事情から、婚姻届を夫婦のどちらかがひとりで提出するという状況もあり得る以上、役所側も、「夫・妻両者の本人確認書類を厳しく確認」というふうにはなかなかできないのかもしれません。

この「知らないうちに婚姻届を提出」というケースも、ようは配偶者の欄に、勝手に記入して提出するという「なりすまし」の手口です。

これだけ聞くと、「つまり、知らないうちに勝手に結婚させられてしまう可能性があるってこと!?」と、モテる美男美女や資産家の方などは、戦々恐々としてしまうかもしれません。しかし、もちろん、法律はそこまでザルではありません。

 

婚姻関係の無効

結論から言うと、夫婦どちらかにその意志がないのに提出された婚姻届は『無効』とされます。

受理され、一度婚姻関係が成立した後に、さかのぼって無効となるわけです。当然、『バツイチ』もつきません。

ただし、いろいろな注意点があります。

第一に、無効とはいっても自動的に無効にはならず、手続きをする必要があること。それをしないと、戸籍上の婚姻関係が成立したままです。

この手続きは、家庭裁判所への「婚姻無効の調停」というものです。その際、婚姻の意思がなかったことに対する特別の証拠などは必要ありません。

おそらくは、勝手に婚姻届に記入された筆跡が、自分の筆跡と異なっているのはすぐに認められるはずです。

第二に、婚姻無効の調停(話し合い)で、相手がそれを認めないケースがあることです。ちょっとよく意味がわかりませんが、世の中にはそういうひとも居て、その場合は婚姻無効の訴えを起こす必要があります。

聞けば聞くほどとんでもない話ですが、先に述べた通り、刑事に類する犯罪行為ですから、私文書偽造罪・同行使罪、公正証書等不実原本記載罪により、相手を刑事告訴してしっかり罰を与えることも可能です。

 

最後に

「お役所仕事」などと揶揄する言葉もあるように、役所というところは正規の手続きさえ踏めば、それ自体に違法行為があったとしても、盲目的に受理してしまう融通の効かないところがあります。

最近では、個人情報保護の意識の高まりによって、一昔前ほどトラブルは起きなくもなっていますが、『婚姻届』には勝手に提出されるというリスクがあることは知っていてもいいかもしれません。

もし、誰かに勝手に婚姻届を提出される可能性があるほどモテると自覚するひとは、役所に「婚姻届の不受理届」を出すといいでしょう。これは、婚姻届を受理できないようにしてしまう手続きです。

 

もり探偵事務所は、尾行・証拠撮影に特化した福岡県の【行動調査専門】の私立探偵です。

こちらの記事もどうぞ 【「悪質探偵に注意」だそうです】