実務研修会1

探偵の実務教育研修会に参加

タイトルの通り、社団法人・日本調査業協会が主催する『第一回実務教育研修会』に参加しました。

これは、さまざまな意味でレアなことでした。

まず、探偵・調査業において、このようなイベントが企画されることがマレ。

おまけに、実務教育とわざわざ銘打った研修会もマレ。

そして、私がこのようなイベントに参加するのもマレ。

マレマレマレとマレの三乗です。

では、私なりの雑感いってみましょう。(あくまで個人の感想です)

 

38倍の業界団体

日本調査業協会は、有象無象が乱立しまくっている調査業の団体においては、古参の協会です。

24年前、私が開業した当時も存在したような覚えがあります。(加入したことはありません)

医者ならもちろん医師会。

行政書士なら日本行政書士連合会。

そして弁護士ならおなじみ日弁連(日本弁護士連合会)。

専門職には、業界団体がほぼ必ずあります。(そして加入は義務です)

 

でも探偵業にはそのような業界団体はありません。(そして加入も義務ではありません)

法律で定められた公益法人がないため、ちょっと大きな調査会社や、オトモダチの多い探偵は、なんとなくカッコのついた、大層な名称の団体を、自分たちで立ち上げてしまっちゃいます。

ウィキ情報で恐縮ですが、『日本の調査業の団体一覧』という項目を見てみましょう。なかなか壮観です。

ざっと数えてみたら38団体ありました。

医師の38倍。行政書士の38倍。そしてじつに弁護士の38倍もの数です……!

 

これだけで、探偵というのがいかに個人主義で、集団行動が苦手で、政治に興味がなく、社会性に欠け、まとまりはなく、なのに権威権勢には興味津々かが、うかがいしれますね。

私は個人主義なところが何よりも探偵の魅力と思っているんですが、そうは言ったって、集団としてまとまらないと、制度や法律、社会に対して、いつまでたっても影響力を持てないのも事実。

だからこそ、「立派な組織としての体をなし、影響力を持った業界団体の樹立」というのは、探偵業界の見果てぬ夢であったわけです。

 

業界団体不加入探偵

私はしがない私立探偵で、どこにも与せず、誰ともツルまず、独立独歩。しがらみというものを持ちません。

業界団体加入の意思もなく、どことも距離をとっています。

そんな、なんの影響力も持たない個人探偵のはずなのに、ときどき業界団体から、オファーを受けることがあります。

ありがたい話ではあるんですが、同時に「ひとりで充分やれてるしな……」と申し訳なくオコトワリします。

 

過激な独立・起業マニュアルなんかには、

「ひとりでやっていけないから組織に身を寄せる。つまり組織の構成員は、基本的にはひとりでやっていけない人々」

などと書いてあることがあります。

「弱いから群れる」と言いたいんでしょうが、さすがにそれは極論かと。(ライオンやシャチのように強くても群れる生き物も居るからです)

けれど、言わんとすることはなんとなく分かりますね。

 

難しい問題です。

独立独歩でやれるひとは組織に入らない。

そうでないひとほど組織に集まってくる。

有力なメンバーが入らないと、組織自体強くはならない。

……これはどんな世界の派閥にも言えることですが、探偵業界ではとくに顕著な問題という気がします。

 

当日の雑感

忌憚のない意見を述べるなら、この研修会でとくに得られたスキルや知識はありません。

でもそれは仕方のないことだと納得しています。

第一に、日本調査業協会という会員制の組織が、非会員をも対象にした教育研修会で、特別な情報やスキルを公開するはずがないということ。

よそ者や加入の意思が無い探偵も大勢受ける研修で、協会がプールしている特別なスキルや知識を簡単に放出するワケがない。

それは会員への優遇、非会員への差別化と、勧誘するための景品として使うのが筋です。

 

第二に、探偵の実戦的なスキル、知識、機材というものは、グレー……というか、もっと色の濃いモノが多く、大勢が集まる公の前では、とてもストレートに披露できるような話じゃないこと。

会場には現役のオマワリさんも居ましたし……。

 

第三に、私は業歴25年めの探偵で、そんな私が「そうか。そんな方法があったのか!」と感心することが、無くて当然ということ。

そもそも私くらいの経験があれば、生徒ではなく、講師として壇上に立つべきかもしれないのです。

講師役になってくれた探偵たちは、ほぼ全員が私より業歴の浅い探偵でした。

もし私が、どうしてもと請われて、探偵教育会の講師になったとしましょう。

もり探偵事務所の、実戦的なスキル、体を張って得た知識、使える機材とその効果的な利用方法……

そんな極秘情報を「ハイよろこんで! ペラペラペラペラ……」と、惜しげもなく披露するか。

するわけがない。しませんよ。

 

だから、今回の研修会が若干物足りなかったとしても、不満はぜんぜんありません。

むしろ、秘密主義・個人主義の探偵でありながら、開かれた会合を開催する意欲に、素直に感心感謝しました。

 

研修会

 

福岡の探偵の実情

今回の実務教育研修会で、もっとも収穫だったこと。

聞き込み手法でも、隠しカメラの実例でも、ドローンでもありません。

福岡の探偵・調査業の数値的実態です。

 

福岡に探偵が何人居るのか。

探偵社がいくつあるのか。

毎年、どのくらいの探偵が新規で開業し、どのくらいの探偵が消えていくのか……。

 

20年以上現役として探偵をしている私でも、実態は不明でした。

そのあたりを管轄しているのが警察……公安委員会という、きわめて閉鎖的な組織だからです。

(ちなみに全国的なデータであれば、警察庁生活安全局生活安全企画課が公開しています)

今回の研修会には県警の生活安全課担当者が来場しており、初めて福岡の実際的データを知ることが出来ました。

 

福岡にある探偵・調査会社……270社 (令和5年時点)

 

これは、全国8位の数。

人口は9番目ですから、人口比から言うと若干多めの競合区ということですね。

近年の福岡の活況を考えると納得です。

令和5年度(昨年)、新規開業した探偵は、なんと39社もあるそうです。

 

……私、1社も知りませんよ。

むしろ福岡に、それほどの探偵が居たことに驚きました。

私の感覚だと……

 

なにかと耳にする探偵社が●社

ネットでよく見かける探偵社が●社

あまり良い評判をきかない探偵社が●社

ほとんど知らないけれど比較的マトモらしい業者が●社

やったら看板を見かける探偵社が●社

数少ないマトモな探偵と思うところが●社

 

と、全部で12~15社くらいという感覚でした。

 

270社? 新規開業39?

 

なんですかその数字は。

最近はよく色々な職業の方に会うんですが、ほぼ全員から

「探偵さんですか! 会ったのは森さんが初めてです!」

と言われます。そのひとたちも、この数字にはビックリでしょうね。

 

そしてこれからの探偵業界は……?

どうなるんでしょう。分かりません。

この日、教育研修に集まったのは75名くらいに見えました。

(定員は80人らしいですので80人居たかも)

その多くが、探偵業界の未来を考えて……というより、たんに自社に有益な情報はないかを期待して参加していたように思えました。

(ウチは違う! という探偵社さん。その意気です。そういう業者が業界の未来を作ります)

 

終了後、ちょっと気になる探偵に個人的に声をかけに行きました。

私なりの探偵業に対する意識や今後の展望が話せたら……と期待して。

が、研修会ではあれほど雄弁に語っていた方々も、差し向かいだと歯切れが悪く、あまり手応えは感じませんでした。

知らないところでバカスカ探偵が増え、会合に集まってきた探偵もまずは利己が先に立ち、一見オープンに見えた探偵も、どこか閉鎖的な印象……

正直に言って、探偵業の健全な未来への道は、なかなか険しそうです。

 

でもだからこそ、第二回実務教育研修会には、期待しています。

少なくとも、そうやって集団として集まり、数としてまとまっていこうとする姿勢は、これからの時代において、決して間違いでないと思うからです。

 

会場