時計とビジネスマン

もり探偵事務所の2024年度は、おそろしく多忙な幕開けになっています。

1・2月はまさに分刻みのスケジュール。現場から現場へと、日に何件もの調査を並行して手がける状態でした。

(すでに3月の予約もいっぱいいっぱいですが…)

もっと言うなら、昨年末から、フルで1日の休みが私にはありません。

1日だけ、友人の弁護士と飲みましたが、その後もすぐに急ぎの仕事でした。(とはいえ、かなりリラックスはできましたが)

忙しい探偵がどのように大変か、同じ探偵でないとなかなか伝わらないと思います。こんなカンジです。

 

緊急の出動要請。

なんとか対応して結果を出す。

報告書作成。(クロの報告書だから大変)

また緊急出動要請。

なんとかかんとか結果を出す。

報告書作らなきゃ…… (二件ぶん)

新規のご依頼。しかも明日の調査。

私「ちょっと対応は難しいかもしれません……」

依頼人「そこをなんとか! 証拠を取るまたとないチャンスなんです!」

めちゃくちゃ大変ながらも成功させる。

いいかげん報告書作らないと……とくに最初の件……。

別の新規の相談が入る。依頼人「別のひどい探偵にだまされました…!」

私「え!? わかりました。かわりに私がなんとかします……!」

大変ながらも成功。

報告書四件……最初のを作っている間に、紹介の話が来る。

「●●さんにご紹介を受けた探偵の森です。ちょっと最近は多忙で受けられるか……え? 依頼したい? 急ぎ?」

 

とホントにこんな感じです。

多忙といえば、他の仕事だってみんなそうでしょう。しかし探偵業は、少々特殊です。

 

・バレちゃダメ  (慎重かつ隠密性が求められる)

・成功と失敗がある  (結果を出さないといけない)

 

仕事が重なる中、スケジュールを調整し、とにかく指示されたことだけ消化すればいい……というものでもないのが、本気の探偵業。

現場に行けば、失敗の許されない【慎重さ】【集中力】が求められるのです。

そしてこの2つは、多忙で疲れていると、真っ先にないがしろになってしまう部分。

「バレても、契約をタテに客に文句言わせなければいいや」

とか

「結果が出ようが出まいがどうでもいい。ていうか、クロだと報告書めんどうだから、動きなしにしとこ」

とか……

そんなテキトーな意識なら、どんなに忙しくてもうまく回せます。

しかし、

「受けた依頼は100%満足いく結果を出そう」

そう考えるなら、依頼が重なりまくった個人探偵は、おそろしく大変なことになるのです。

 

「予定をうまく組むのもビジネススキルじゃないの?」

「たんに時間の使い方がヘタなのでは……?」

 

いえいえいえ。前述した通り、探偵業は普通の仕事と少々違います。

上手に予定を組もうにも、そもそもその予定が狂いまくるからです。

ほかでもない、調査対象者のせいで。

たとえば、以下のような感じです。

 

①深夜とつぜん、依頼人さまから「(調査対象者が) 今から外出するって言ってます。あやしい!」という連絡が来る。

 

もちろん緊急出動します。

「遅くても0時くらいには帰宅すると思います」と依頼人さま。「明日は9時から新規の依頼人と面談だけど、影響はないかな……」とホッと一息。

でもフタを開けると、対象者はまったく帰宅しようとせず、明け方までウロウロウロウロ。

終わるに終われず、帰るに帰れず。気がついたら翌朝6時……。

さあ。面談の予定までもう3時間切ってます。

探偵の面談は、惰性的な会議とは違います。プロとして、なにもわからない相談者に対して、丁寧かつシンプル、親身ながらもキゼンとした案内・提案をしなくてはならない、一発勝負。

とてもじゃないですが、夜通し寝ずに調査した疲労困憊の状態では、満足に行えるものではありません。

 

仕方なく面談日をズラしてもらおうにも、先方も多忙な中なんとか作った時間であったりして、簡単に別の日というわけにもいきません。

ではせめて午後からにしてもらって、少し仮眠を……

いえいえ。午後は午後で、じつは別件の面談、その後は先日調査してクロだった件の報告が控えています。

ましてやクロの報告だと、アッサリ済ませるわけにもいきませんから、そちらも時間を動かすわけにはいかないのです。

 

さてこの日は午前に新規相談、午後に報告の面談、夜には別の依頼人さまと電話で打ち合わせ。そして夜も、継続して調査が入っています。

その調査に関しても、翌朝までには、ある程度写真や時系列をまとめないといけません。

「疲れた」「次の調査、どう組み立てよう」「ああ、報告書が溜まっている……」

……なんて散漫な気持ちで居ると、目の前の調査でしくじりますから、身を削り、脳内麻薬をひねり出してでも、集中する必要があります。

 

②浮気調査の予定日の前日。朝、調査対象者の下見に行ったところ、おやおや、会社サボッて高速道路乗り始めましたよ。

 

とりあえず条件反射的に追いかけます。

とはいえ、急な動きであり、それが不貞行為の始まりかは、少し時間が経たないと分かりません。

相手は高速道路ですから、1時間もためらっていたら、挽回不能なくらい遠くに行かれます。

かといって、1日の指定日調査として料金をもらっている以上、勝手な判断でその日付の変更はできません。

そもそも、追いかけていったあげく、空振りだったとしたら、とてもじゃないですが料金も経費も請求はできません。

けれど、たとえば月に一度しか浮気しない人間の不貞行為を押さえようとして、この行動がまさにそれだとしたら、みすみすチャンスを見逃すことになりかねません。

(翌日、予定通り調査しても、まったく意味はなしません)

 

多くの同業者は、見て見ぬフリするでしょう。

指定された日に調査すればいいだけの話で、前倒しして結果を出しても、翌日空振りで無意味な調査をしても、料金的にはまったく変わらないからです。

むしろ、勝手な判断で動くほうが、圧倒的にリスクが高いと言えます。

しかし私はこの状況で追いました。探偵としての経験と本能、なにより結果を出したいという良心で。

依頼人さまには途中で連絡を取り、その旨を端的に説明します。

「もりさんが今日だと判断するなら、それを信じます」

その返事をもらい、私の責任において調査日を前倒しにしました。

 

予定にない、満足な調査態勢もできていない、それも対象者からはかなり遅れてのスタート。

もう、この日1日の予定はすべてキャンセルして、調査に全力投球です。

依頼人さまと電話のアポが一件、午後の調査予定が一件、どちらも先方に事情を話して、後日にしてもらいます。

とはいえ、キャンセルできない予定もあります。新規の依頼人さまからのとつぜんの電話相談です。こういうときに限って、飛び込みの相談電話が来たりするからフシギです。

そんなわけで、長距離移動する対象者を追いかけながら、とつぜん来た新しい相談者の話を聞き、必要な調査の説明をし、ふさわしいプランを考え、次の面談の日取りを設定するという、スタッフに言わせれば変態じみたハナレワザをやることになるワケです。

 

けっきょくこの日の私の判断は大正解。いい結果を出すことができました。

契約通りの杓子定規な調査をしていては、空振りだったことでしょう。

私自身気分よく、依頼人さまもニッコリ、まさに典型的なウィンウィンでしたが、その代償として、私自身は激しく消耗することになりました。

緊急調査で結果を出すことは、おそろしく消耗するモノなのです。

また、この日の調査結果により、この依頼は次のステップへと進むことになりました。そちらでもあらためて結果を出さなくてはなりません。

緊急調査でうっちゃった1日分の予定も、すべてフォローしなくてはなりません。ああ今日の分の報告書、いつ作ろう……。

 

この忙しさや消耗の原因は明確です。言われなくてもわかっています。すべて私が自分自身でやろうとするからです。

電話は事務員に。調査はスタッフに。それでもまわらない案件は下請けに。

そうすれば私も楽ができる。(ついでに楽に稼げる)……そんなことはわかっています。

しかし、それをやってしまうと、私が「もり探偵事務所」という個人探偵事務所をやる意味がなくなるのです。

それに、ウチに依頼してくれる依頼人さまは、探偵事務所に依頼しているのではなく、「探偵の森」に依頼をしているのです。それは見てわかります。

その信頼を裏切るわけにはいかない……それが、この忙しさの正体です。

 

おそろしく忙しい反面、成果は着実に出ており、多くの依頼を成功で終わらせています。

顧客満足度という観点では、私の見た印象ですが、限りなく100%に近いのでは、と思っています。

それは「スケジュール的に楽しよう」とか「言われたことだけやって効率的に稼ごう」なんて思わないからこそ得られたもの……

その手応えがある以上、この多忙さは、むしろ探偵としてのシアワセだと感じないといけませんね。

 

時計とビジネスマン