二人の探偵志望者

長く探偵業を続けていると、「探偵になりたいです!」という志望者からの突然のアプローチを受ける事があります。(【探偵になった依頼人】)

今回は、特にインパクトがあった二人の志望者の話をします。

 

一人目の志望者

一人目は中学生の女の子でした。

ある時、私が事務所の郵便受けを開けると、可愛らしい封筒が入っていました。差出人の名前に見覚えはありません。

ラブレターをもらう心当たりもありません。爆発物が入るような厚みもありません。

慎重に開封すると、福岡近隣のとある地方都市に住む中学生の女の子からでした。

「私はミステリー小説の大ファンで、将来は探偵になりたいのです。お手伝い出来ることはありませんか? それか探偵になるための方法を教えて下さい。お金はありません」

そんな風に記してありました。

私は感心したものです。私もかつては探偵志望者で、なりたくて探偵になった身です。しかし、中学生にして現役探偵にお手紙を出すほどの行動力は持ちあわせていませんでした。

この女の子は、そういう意味では、探偵に必要な「行動力」と「思いきり」を兼ねそろえた将来有望な人材と言えるでしょう。

「お金はありません」だなんてはっきり言い切って予防線を張るところなんて、正直シビレました。

しかし、返事は出しませんでした。

前途多望な中学生に、探偵業界というジメジメした薄暗い場所へお越し頂くことに抵抗があったからです。

シャーロックホームズや名探偵コナンに憧れをもつミステリーファンではなおのこと、現実の探偵の姿にガッカリさせるだけとも思いました。

今では立派に成人して社会に出ていることでしょう。その後どうしているかはまったく分かりませんが、自分の道を切り拓き、何かしら素敵な夢を叶えていたら嬉しいなと思います。

 

二人目の志望者

二人目は元ヤミ金業者というチンピラです。

ある時期、規制が強化され、ヤミ金業者が一斉に廃業したことがありました。この男性に限らず、金融業から調査業へ鞍替えした業者も少なからず居るようです。

真夏の暑い日でした。

「自分―、探偵にー、なりたいんスけどぉー」

突然電話をかけてきた男が、礼儀をまったく考慮しない口調で言ってきました。

普段の私であれば丁重にお引き取り願います。が、その時は何故か少しだけ興味を持ちました。そこで、事務所に来てもらい面接する事にしました。

「探偵なら自分にも出来そう」

「楽して稼ぎたい」

「自分は向いていると思う」

パンチの効いた発言の数々に、中学生の女の子とは正反対の方向性で感心させられました。履歴書すら持ってきていません。

私は、携帯の番号だけ聞き、1000枚の自社チラシの束をその志望者に渡しました。

そのチラシを配布して、来た依頼であれば、現場へ同行させ見学させるという条件です。

ヤミ金業者ならポスティングにも慣れているだろうと思いました。

私などまだ可愛いもので、とある大手の調査事務所では、たくさん来る探偵志望者にそれぞれ「数万枚」もの膨大なチラシを渡し、同じようにさせていたという話でした。

他にも、個人宅に一軒一軒飛び込み営業をさせ、依頼を取ったら採用という業者もあったと聞きます。

 

探偵志望者の行動調査

「1000枚スか…」と明らかにドン引いていた男性はそれでも、「分かりました。すぐ全部配ります」と言って事務所を出ました。

私はさっそくその男性の尾行を開始しました。

私は普段、報酬の発生しない興味本位の尾行などまずしません。

しかし、この志望者に関しては、採用テストみたいなものだと考えました。どんな人物かも分かるし、万が一にも尾行に気付くような有能な人材なら拾い物です。

 

行動調査結果報告

男性は、事務所近くのコンビニに停めていた自分の四駆に乗り込むと、吉野家へ行って牛丼を食べました。

それから、ブックオフで一時間ほど立ち読みし、その後しばらく走って福岡都心部から離れると、パチンコ屋に入って二時間くらいスロットをした後に、福岡市西部の端っこにある自宅へ帰りました。

実家暮らしなのか、庭の広い平屋の戸建てでした。田と原っぱに囲まれた見通しの良い古い木造家屋です。

翌日の午後、私はその志望者に電話をかけてみました。

「ポスティングはどうですか? もう始めてますか」

「あ、はい。ちょうど今やってるとこっス」

「大変でしょう?」

「けっこー大変スねー」

携帯で話しながら、私はその志望者の自宅へ歩きました。本人の四駆は止まっています。

家の裏手にまわってみると、庭越しに、半袖半ズボン姿のその志望者が窓を全開にした畳敷きの部屋で寝っ転がっているのが見えました。

マンガを見ながら、電話を片手に、棒アイスをくわえていました。

庭に立っている私に気づくと、大きく目が見開かれ、まるでコントのように、口にくわえた棒アイスがポトリと畳に落ちました。

そして、ゆっくりと身体を起こし、乾いた声でつぶやきました。

「……すんません」

私はまったく減っていないチラシを返してもらい、自分でポスティングしてから事務所に帰りました。

その志望者のその後はわりとどうでも良いですが、まあ図太くちゃっかり頑張っているのでは、と思います。

探偵以外の道で。

 

福岡の行動調査専門探偵 もり探偵事務所