Buddy2

ふと、「最近は調査訓練をしていないなー」と頭によぎりました。

理由は明確で……

1 そんなヒマがないくらい、現場の調査に追われている

2 久しく新人が入所せず、新人研修を行っていない

3 同業者から研修の講師を頼まれたり、新人への教官役を頼まれることがなくなった

 

そこにあえて4を加えるなら、

「機材やネットが進化し、プロ不要の時代になり、【訓練する探偵】なんてものが絶滅寸前」

 

少し自分の話をするなら、私は20代の前半で探偵事務所を開業しました。

どこかの興信所に務めてからの独立でもなければ、師事したベテラン探偵も居ません。

調査会社の二代目でもない。身内に警察関係者が居たワケでもない。まったくの独力、手探りで探偵を開業したモノ好きです。

付け加えるなら、太い実家からの有形無形の援助があったとかでもないですよ。親からお金もらったのなんて、高校生まで。

(だから、親族の援助に頼ってビジネスする人間が、私はどうも好きになれません)

 

ふつうなら、まあ、うまくいきっこないです。それでも生き残れたのには、いろいろな理由があります。その大きな理由のひとつが、

 

「調査のトレーニングを自主的にやったから」

 

向上心を持ち、自分の頭で考え、スキルを伸ばす……

プロとしては当然で、わざわざ口に出すのもはばかれることですが、当時の探偵業界では、けっして当たり前ではありませんでした。

今でも忘れられない言葉があります。

開業して二年目、大阪の大手調査会社の調査員と接触する機会があり、そのときに言われた言葉です。

大手の調査員との初めての交流。私は勇んで「合同調査訓練」を申し出ました。

当時の私は、大手の調査員ともなれば、舌を巻くほどのスキル・特殊な機材を持つ、別格の存在だと思い込んでいたのです。

私自身にしても、年も若く、イケイケで、それなりの負けん気と自信に溢れていましたが、何しろこっちは独学の無頼派。

正規の過程を経てきた、言ってみればハイキャリアの探偵エリートと接する機会ですから、とにかく少しでも学び、得られるものは貪欲に吸収しようと、意欲的だったわけです。

 

その大手調査員は、ヘラっとした顔で、

「ごうどうちょうさくんれんw? 合同調査訓練ww いやいやいや。そんなヒマじゃないしwww」

部外者と合同訓練なんてようしませんわ、というのではなく、「訓練する探偵」なんてものがそもそも理解でけへん、というニュアンスの返答でした。

「てか森さん、訓練とかやるんですかww マジメですわwww」

小馬鹿にした口調でそんなふうに言われる始末。

私は、

「だったら、いつ失敗するんです? まさか本番の調査でですか?」

と切り返しました。相手は黙ってしまいました。

後にその探偵は、格上どころか、自分よりも全然下だったと判明します。

私の調査の成功率はほぼ100%でした。その調査会社の成功率はおそらく7割くらい。

3割は、バレたり、警戒されたり、期限内に結果を出せなかったりで、普通に、本番で失敗する探偵だったワケです。

 

うさんくさい営業

 

「大手の調査員が、個人探偵の足元にも及ばないスペシャルなスキルと機材を持っている」なんて、ただの幻想、勘違い、思い込み。

私の過大評価でした。

唯一、常に複数態勢(3・4人)で調査にあたるというアドバンテージはありましたが、私が1人でできることを2・3人でやってる始末。

そして、チームでの調査というその代償として、私の5倍くらいの料金を取っていました。

 

さて、私が出した言葉「だったら、いつ失敗するんです? まさか本番の調査でですか?」は皮肉でもなんでもありません。

たとえば軍事。そして医療。ひたすらトレーニングとリハーサルを繰り返します。それはなぜか。

 

「(よほどの天才でもなければ)、人間は反復訓練で体に染み付かせた行動しか、瞬時に発揮できないから」

「人間は必ず失敗する。それが許されない職種では、訓練の時しっかり失敗をしておき、本番でそれが起こらないようにしなくてはならない」

 

探偵だって同様だと私は思います。

尾行、張り込み、証拠撮影、潜入、聞き込み、機材の設置、その他瞬間的な情報取得……中にはやり直しのきかない一発勝負もあります。

10回中7回成功すれば御の字。それが調査業界の常識だったとして、10人の依頼人さまのうち、3人は結果が出ずに諦めさせなくてはならないことを意味します。

その大阪の大手の調査員は、むしろ「ウチは7割も成功させる」みたいなスタンスで話していました。(「ウチなんてまだマシなほうですわー」)

3割の失敗など許容範囲。探偵というビジネスには付き物であると。

当時、(そして今でも)「10件中10件の依頼を成功させるべき」と考え、そんな探偵であろうとしていた私には、ある意味衝撃的でした。

 

ダメ探偵

 

自分の話が長引きました。戻します。どうして探偵にトレーニングが必要か。

たしかに、じっさいの現場に勝るエクスペリエンスは無いかもしれません。

そして忙しい探偵・調査会社には、訓練に割く時間的・精神的余裕があまりないことも。

けれど、実戦には「リスクを極力避け、手堅く結果を出さなくてはならない」という制約があります。

いろいろ試したり、不慣れなことに挑戦したり、いつもと違うことをする余裕などないワケです。

探偵で言うなら、普段の自分がやらない調査手法、まったく新しい機材の投入、いつもの機材の幅を広げた利用法……

それらは、依頼人さまから受けた正規の依頼でやることではない、ということです。

また、実際の調査でバレたり失敗するのはシャレになりませんが、トレーニングであれば、いくらでもやり直しがききます。

 

「で。探偵のトレーニングってどんなことするの?」

 

なかなか難しい質問です。元来、「マニュアルありき」の仕事ではないためです。

例えば、聞き込みや人探しなんて調査は、本人固有のコミュニケーション能力や話術がモノを言います。

逆に言えば、【話術の訓練】くらいしかやれることはなく、それは探偵の訓練とも少し異なります。

だから、探偵のトレーニングといえば、もっぱら「行動調査訓練」ということになります。

【尾行】【張り込み】【証拠撮影】

この3つが行動調査の要ですから、それぞれをトレーニングすることになるわけです。

 

私が開業したばかりの頃もそうでした。

私は自分なりに「行動調査」を分析し、上記の3つの要素に分解しました。そして、それぞれを自分なりに考え、必要と思えるトレーニングを実施したのです。

だから、探偵によって、【尾行訓練】【張り込み訓練】【撮影訓練】の内容は異なると思ってもらって良いです。

(私以外に調査訓練なんてものをする探偵が他に居れば……ですが)

尾行訓練、張り込み訓練、そして撮影訓練。いったいどのようなことをするのか。

長くなってきたので、また次回にしましょう。

 

nicebudy