最近現場で、ウェアラブル・カメラを使用している調査員が増えた気がします。
別の探偵と組んで調査していて気づいた……とかではないため、ハッキリしたことは分かりません。
ただ、最近よその報告書を見る機会があり、その写真を見て抱いた感想です。
あと、別の探偵事務所のホームページを見る機会があり(ふだん、ほとんど見ません)、ブログに「最近愛用している調査機器」とウェアラブルカメラについての記事がアップされていたのをナナメ読みしました。
ウェアラブル・カメラ。アクションカメラとも言われる、小型・軽量・高画質の固定式カメラです。GoProなんかが有名ですね。
いまひとつ秘匿性には欠ける気がしたので、私は調査機器として目はつけなかったんですが、今やアクションカメラを装着している人間なんて町中に居ます。
むしろ、一眼レフやビデオ、スマホなんかをヘタに構えて、いかにも「あのターゲットを隠し撮りしてます」みたいな雰囲気を出してしまうほうが、盗撮犯と勘違いされ、面倒なことになりそうです。
私の想像ですが、おそらくはリュックのストラップやキャップなんかに装着して運用しているのではと思います。
ドラレコのような感覚で撮影できるという意味では、ウェアラブルカメラと探偵の調査の相性は悪くないということでしょう。
カメラ・ビデオ・スマホによる手動撮影は、どうしてもミスが生じることがあります。
相手の突然の動き(どこかの店や建物に入られる)、接触者と合流する一瞬の機会。それらにタイミングを合わせらないボ◯クラ調査員も居ます。
「録画ボタンをうまく押せなかった」
「対象者の至近距離でiPhoneのでかいカシャッ音を響かせる」
ドラレコによる動画流しっぱなしであれば、少なくともそんな失敗はありませんから、安心材料になります。
ただ、あくまで森個人の感想で言うなら、ウェアラブルカメラをメインで使う調査にも難点はあります。
倍率や画角が固定されることによる、柔軟性の欠如です。
たとえばドラレコの映像は誰が見てもドラレコの映像。防犯カメラと同様、まったく同じ視点、角度、倍率の映像になってしまいます。
基本的に人は小さくしか映らないため、ある程度接近しなくてはなりません。
また、キャップでもリュックのストラップでも、固定したレンズを対象者に向け続けること……これは、常に同じ姿勢、一定の間合いで張り付くことを意味します。
しかし、徒歩尾行というのは、本来そんな単調なものではなく、ターゲットとの距離、自分の立ち位置を、柔軟に、慎重に調整しつつ行うもの。
背後霊のように、相手のすぐ後ろ一定距離に張り付き、ひたすら付いていくというのは、ヘタクソな尾行の典型です。
車両尾行・徒歩尾行両方に言えることですが、「見失わないよう相手についていく」という単純なアクションがスキルとなり得るのは、この間合いや立ち位置を、自在にコントロールしてこそ。
言ってしまえば、探偵のウデの差は、間合いと立ち位置、シャッターチャンスにおけるタイミングに集約されるわけです。
ウェアラブルカメラは、流しっぱなし撮影による調査失敗の最低限の保証にはなりますが、それと引き換えに、この間合い・立ち位置・タイミングのすべてを一定のレベルに固定すること……と見えなくもありません。
0点がなく、いつでも必ず5点は確保できるものの、8点や9点は絶対に取れないと言いましょうか……。
しかし、私が考えるウェアラブルカメラの最大の難点。それは【相手にバレやすい】という一点に尽きます。
なんで? 「カメラを構える。シャッターを押す」といった、一連の隠し撮り動作をしないから、逆にバレにくいはずなのでは……?
その通りなんですが、人間ドラレコとして常に相手と一定の距離を保ち、体に固定したカメラを向け続けるという動作は、じつはけっこう目につくもの。
ちょっと想像してみてください。自分の後ろに、いつも同じ距離・姿勢でついてくる、帽子とキャップの人間が居る……怪しくないですか?
(私が見た限り、調査員の「キャップとリュック着装率」は異常。そしてだいたい黒っぽい服装しています)
じっさい私が、「これ、ウェアラブルカメラで撮影したんだろうな」と思った探偵の報告書。
見ていると、途中で対象者が調査員に気づき、怪しみ始め、途中からはハッキリと睨んでいるのが、克明に記録されていました。
その報告書では、浮気相手の女性と合流し、カフェに入り、外に出て手を繋いだところまでは撮れていました。
ですが、そのあたりでどうも相手にバレたらしく、二人は急に体を離し、何食わぬ顔で離れて歩き、そのままラブホテルに行くこともなく、不自然に別れました。
その探偵の報告書には
「なぜか二人はとつぜん別れる。その後、ターゲットの警戒が厳しく、発覚リスクを考え、尾行を中断する……」
と記してありましたが、お前のせいだろ。
画面を確認せずに人間ドラレコ的な調査をするものだから、対象者の微妙な表情の変化に気づけなかったのです。
(なにかおかしい… → あの帽子リュック、俺をつけてんじゃねえ? → 確認してみるか …… → やっぱりそうだ。あいつ探偵か!?)
私だったら、追跡中は、相手の視線や表情の変化にまで意識しながら調査します。
その報告書を見せてくれた相談者によると、この調査以降、対象者の警戒がひどく、マトモな調査ができなくなったばかりか (そりゃそうだ)、調査難度が上がったことを理由に、追加料金を請求されたそうです。(なんと理不尽な)
業界の中の人から言わせてもらうと、ベタ付けイケイケタイプの調査員が「これ以上できません」とまで言うときは、だいたい対象者に「おまえなに尾けてんの?」と詰められたり、交番に駆け込まれたりしているのがパターンです。
まだ決定的な証拠を押さえる前だとしたら、回復不能なほど現場が荒らされてしまった、最悪の状況と言えるでしょう。
もちろん、こうなったのがウェアラブルカメラのせいだなんて言う気は毛頭ありません。
新しい機材にナンクセをつけ、使い慣れた一眼レフやビデオにだけ固執する……これでは探偵として足踏みです。
新しい機材をドンドン試し、取り入れ、進化していく……この姿勢は、見習いこそすれ、否定するものでもありません。
けれど、
「人間ドラレコとして単に楽がしたい」
「間合いとか立ち位置とか、あまり難しいこと考えずに調査したい」
そんな意識で固定カメラ流しっぱの調査をしているとしたら、それは単なる手抜きです。
そしてそんなブサイクな調査をしていては、思わぬタイミングで足元をすくわれ、
「さっきからずっと付いてきてんだろ、バレバレなんだよ! おまえだよおまえ、そこの黒い帽子とリュックのやつ!」
と対象者に詰められかねないことを、常に想定すべきでしょう。