潜入調査は違法になるか?
依頼人さまの中には、多少法に触れてでも、証拠を取りたいと望まれる方が居ます。
具体例で言うなら、
とか、 とか……。もちろん、探偵としての立場上、依頼人さまにははっきりお断りしますし、そのような違法行為はやりません。
では、そのような、違法収集した証拠には、証拠能力がないのか……?
今回はそれについて解説します。
違法な証拠が使えるかの二択
じつは、民事訴訟か刑事訴訟かでハッキリ分かれます。
刑事訴訟……違法収集証拠は使えない
民事訴訟……証拠に違法かどうかは関係ない
ほとんどの場合、探偵に依頼される証拠は民事です。
だから、探偵が収集する証拠については、
です。
証拠として使えても……あとあと問題になる違法行為
勘違いしてはいけないのは、民事だったら証拠を取るために何をしても良いわけではない、ということ。
あくまで、証拠そのものの価値に、違法・適法が関係ないだけであって、収集過程で犯した不法行為については、責任が発生します。
たとえば、マンションに不法侵入し、建物内からしか撮れない浮気の証拠写真を撮ったとしましょう。
いくら対象者やその相手が「不法侵入して撮影された!」と騒いでも、それで証拠として使えないわけではなく、不貞行為の立証は可能です。
けれど、撮影者の探偵自身は、不法侵入として問題になります。
その行為の違法の度合いによっては、探偵が後々に対象者から、刑事告訴されたり、民事で賠償請求されるリスクもあるのです。
【判例】著作権侵害を潜入調査で調べた探偵
探偵の調査手法が問題となった、珍しい判例があります。
名古屋地判平成15年2月7日 著作権侵害差止等請求 (裁判所HPへ)
とあるダンススクールで、講習に使われていた楽曲が、著作権侵害に当たるかどうか。
依頼を受けた探偵が、スクールの受講生として潜入。証拠を確保をした案件です。
その潜入調査が違法か否かが問題になりました。
著作権侵害は民事・刑事の両方に問われる
著作権の侵害は、れっきとした刑事問題です。
(著作権、出版権、著作隣接権の侵害は10年以下の懲役、又は1000万円以下の罰金。著作者人格権、実演家人格権の侵害などは5年以下の懲役、又は500万円以下の罰金)
探偵の調査に違法性があるなら、その証拠は無効なのでは、というのが問題点でした。
探偵の調査手法
このダンススクールに潜入した探偵は、正規の入会手続きを経て、所定の月謝を支払い、生徒としてスクールに通いました。
そして、見聞きした事実を、報告書として提出しました。
このような手法であれば、建造物侵入罪には該当しないと判断がなされました。
報告書についても「生徒として自然に見聞きした事実に基づいて作成されている」と認められました。
違法な証拠収集というのは、著しく反社会的な手段を用いたり、人の精神的・肉体的自由を拘束するなど、人格権の侵害を伴う方法で採集されたとき、該当します。
この探偵の潜入調査は、そういった手法ではないとみなされたわけです。
対象者サイドの弁護士から難癖をつけられた探偵
著作権の侵害は、大きな問題です。
刑事罰も受けますが、なにより、民事上の損害賠償の補償と不当利益の返還が高額になることがあるからです。
当然、このダンススクールも弁護士を雇い、訴えた側の、ありとあらゆる点を追求しました。
調査目的を秘匿して潜入した探偵も例外でなく、その違法性を指摘されたわけです。
しかし、結果として、この探偵の潜入調査に違法性はなく、収集した証拠の証拠能力についても、問題はないとされました。
この判例は、じっくり隅々まで読まないと、探偵が絡んでいるとは分かりません。
依頼人自身も違法な調査の罪を負うのか?
最後に、依頼人さまがもっとも気になる点について。
通常、探偵の犯した違法調査について、依頼人が責任を問われることはありません。
(調査を依頼しただけであって、その手法までは細かく指示しないからです)
ただし、明らかに違法な調査を指示した場合は別です。
探偵も、自らの立場を保全するため、さまざまな逃げ道を用意します。
たとえば、第三者の車両にGPSを付ける、会社に盗聴器を付けるなどの場合……
機材だけを渡し、「依頼人自身が付けてください」というふうに扱うはず。
もちろん、それが発覚した際は、依頼人自身の問題になります。
つまり、
ご注意を。