イヤな女探偵

まだトラブルになっている別れさせ屋

「別れさせ屋」が問題になっている、とのニュースを目にしました。

これだけ時代が進み、ネットが発達し、価値観が変容しても、あいも変わらずそんなこと言ってるのか、と少し驚きました。

「別れさせ屋うんぬん」なんて、二十年くらい前から問題になっていたからです。

 

別れさせ屋は正確に言うと探偵とは別物です。

しかし、業務的にかぶる部分が多く、おまけに「別れさせ屋」を名乗る業者のほとんどが、探偵業の届出を出しているとのこと。

つまり、探偵業の正常化を目的とした「探偵業法」は、トラブルの回避や業者の浄化に、ほとんど寄与していないことになります。

 

なぜ探偵=別れさせ屋?

どうして、探偵業者が別れさせ屋とかぶるのか。理由はいくつもあります。

 

・そもそも探偵はアンダーグラウンドな活動が得意

・裏工作は探偵業務と親和性が高い

・普通の調査業務で食っていけない探偵が手がけるようになった

・浮気調査よりも金になりやすく、金に汚い探偵がやりたがる

 

諜報(スパイ)の世界では、純粋な『調査員』と、より過激な『工作員』とが棲み分けています。

探偵の世界でも、工作員よりの性質を主とする人種が、『別れさせ屋や『復縁屋』に手を染めているわけです。

 

それで、別れさせ屋ってホンモノなの?

別れさせ屋の正義やモラルはともかく、一般人がもっとも気にするのは……

「別れさせ工作」や「出会い工作」って本当に可能なのか?

……でしょう。

 

これに関しては、「しょせん水物」

成功はまったくゼロとは言いませんが、その成功率は感覚として【数%だろうというのが、私の考えです。

かなり低い数字ですが、大きな理由が2つあります。

 

①非合法な依頼なので、責任を問われず、成果を出す必要性が薄い

②復縁にしろ破談にしろ、けっきょくは当事者次第であり、外部からいくら刺激しようが、完全にコントロールできるものではない

 

工作を称する以上、なんらかの人の手が入り、さまざまな働きかけは行われるでしょう。

しかし、結果に関しては、「成功することもあるだろうね」……程度のもの。

そういう意味では、逃げた人探しに近い業態と言えます。

それぞれについて見ていきましょう。

 

①非合法ゆえに、成果を出さなくても、問題にならない

個人的にはここが一番の問題点と思います。

たとえば「病気の治療」「法律問題の解決」「壊れた自動車の修理」など……

まっとうな業務であれば、そこには、きちんと成果を出さなくてはならない責任が生じます。

医療ミス、手抜きの法律手続き、テキトーな修理……ナットクいかない仕事がなされれば、患者も、依頼人も、顧客も、文句を言うはず。

 

けれど「別れさせ工作」や「出会い工作」は、大っぴらにはできないウラの仕事。

きちんとした契約書や領収書が交わされることはまずありません。

(そもそも民法上、公序良俗に反する契約は無効とされます)

 

だから、結果を出さないどころか、きちんとした仕事すら行われなくても、業者側にはいっさい責任を問えません。

訴えることも、問題を公にして騒ぐこともできないのです。

 

そしてこれが大事なポイントですが、「結果を出さなくても問題にならない」「依頼人は文句を言うどころか、表沙汰にもできない」業務を、マジメにする必要があるでしょうか?

別れさせるにしろ、自然に出会わせて縁を作るにしろ、マトモにやればおそろしく大変で、手間も時間もかかります。

何百万もの成功報酬が見込めるならともかく、そんな業務を本気でやる必要性は正直薄いです。

100~200万程度の着手金を取って、「鋭意工作中」とお茶を濁し続けるか、「精一杯やりましたが、ダメでした」と依頼人を泣き寝入りさせるのが、ビジネス的には賢い選択です。

 

 

②けっきょくは当事者次第である

工作と言えば、隣の大国が、政治家や技術者をハニートラップで籠絡するのは、まことしやかなウワサとして流れています。

ことの真偽は不明ですが、国家レベルで予算を組み、専用の工作員を育成し、長期的な視野で、人間の基本的な欲望(自己顕示欲、金銭欲、出世欲、そして性欲)を狙った工作を本気で実行すれば、それは可能かもしれません。

しかし、民間の業者が、一般人のカップルを破局させたり、依頼人と魅力的な女性をくっつけたりするのは、まったく次元の違う話です。

 

たしかに、基本的な欲望は誰にでもあるもの。

男性であれば、とにかく美女・美少女、色っぽい女性には弱いでしょう。

女性であれば、金持ち、社会的地位や知名度のある男性を好ましく思いがち。

でもだからといって、そういった属性を持つ工作員が接触したとしても、別れさせたりくっつけたりが自在に行くほど、男女関係は単純ではありません。

 

冷静に考えてみてください。たとえば「別れさせ工作」

これは、カップルの男女どちらかに、魅力的な男性工作員か、色っぽい女性工作員が近づき、夢中にさせて、浮気させたり仲違いさせるわけです。

しかし、近づいてくるのが、色っぽい美人にしろ、法外に金持ちの男性にしろ、そういった恵まれた人間が向こうからグイグイ近づいてくる状況に、違和感を覚えないのはよっぽどのバカ。

 

ましてや、近づかれる方に特別なものが何もなく、ごく普通の人間であるならば、並外れて魅力的な男女が接近してくる状況自体が、不自然なわけです。

(いくら出会いそのものを自然に加工しても、状況的には同じこと)

男は美人に弱い、女は金持ちに弱い……

だからといって、コロリと今のパートナーから鞍替えするような、簡単な人ばかりではありません。

 

「ロマンス詐欺や、美人局なんかはどうなの?」

そんな声もあるかもしれません。

が、ああいう連中は、誰彼かまわず狙うのではなく、ちゃんと落とせそうなターゲットを厳選します。

(まずターゲットありき、なわけです。ココ重要)

 

別れさせ屋はターゲットを自由に選べません。

あくまで依頼人が望んだ相手を狙わなくてはならないという、大きな大きな違いがあります。

ましてや「くっつける工作」なんて、おそろしく難しいのは、少し考えればわかるはず。

別れさせ工作では、美女やプレイボーイといった特別な工作員をあてがうのに、「くっつけ工作」では普通の男女(つまり依頼人自身)を相手に接近させる……これがムジュンでなくてなんでしょう?

 

③別れさせ・出会い工作はせいぜい「ドラマ」を提供するだけ

マジメにやる必要性に乏しいのに、それでも工作をする良心的(?)な業者が居たとして……

くっつけたり、壊したりは、コントロールできるものではありません。

だから、もし物好きな業者がマジメに工作したとしても、せいぜいが『ドラマチックな出会い』を提供するだけ。

仲を壊すにしろ、取り持つにしろ、そのドラマをターゲットに近づけ、その結果として、工作が成功することもある、という程度の話でしかありません。

 

多くの人が、自分の恋愛体験を振り返ってみたとき……どれだけのドラマがそこにあるでしょう?

フツーの、一般人の恋愛は、ドラマではなく流れ

職場でいつも顔を合わせる、オンラインゲームで知り合った、友達に紹介された、マッチングアプリで知り合った……

ドラマチックな要素なんてほぼありません。

 

そんなところに突然ドラマチックな出会いが降って湧いたとして……

よほど自意識過剰な男性か、ふだんから夢見がちな女性でもない限り(そしてそういう人たちが、ロマンス詐欺や美人局のカモです)、その状況自体に対して、素直に受け入れられず、身構えてしまうのが当たり前の反応です。

だから成功率なんて、ほとんど無いわけです。

その【流れ】そのものを自然に作れば……工作の成功率はグッと上がりますが、それができるほどの技術をもつ一流の工作員は、ごく限られているでしょう。

(少なくとも私は会ったことはありません)

 

④成功率の数字のカラクリ

業者が自称する成功率の数字には、なんの意味もありません。

あてになるのは、確実な数字……0か100だけだからです。

「成功率0%」も「成功率100%」も、業者は口が裂けても言いません。

そして、公称99%の成功率も、実態1%の成功率も、依頼人にとってはまったくの等価。

(成功率99%は理論上100回頼んで1回しか失敗しないという意味ですが、そんなに頼む人は皆無だからです)

 

探偵もりの出会い工作

しかしそんな私も、じつは過去に、出会いの縁を取り持つ仕事をしたことがあります。

男性依頼人が、とある店の女性店員に一目惚れして、橋渡しを頼まれたのです。

どんな依頼であっても、マジメに取り込むことが私の信条。その依頼も全力でやりました。

 

工作員でも別れさせ屋でもない、純粋な私立探偵である私が引き受けた一番の理由は、依頼内容が『くっつけ工作』ではなかったから。

私が責任をとる範囲は、あくまで状況』の提供

自然な出会いのみをセッティングし、そこから先へ進めるかは、依頼人のがんばり次第……だから、お手伝いしたわけです。

 

その「ドラマ」のため、私は、意中の女の子が勤める喫茶店に通い、常連になることからスタートしました。

そこから先については、また次回に記します。

 

店員