現役弁護士による 実りある講義
先日開催された「九州調査業協会研修会」にて、弁護士の河津典和先生から、不貞による夫婦離婚問題についての解説を受けました。
前回の記事で書ききれなかったことをあらためて記します。
(研修は2019年でしたが、補足しています)
とくに、浮気調査でも少々変わったケースに対して、現役の弁護士からのアドバイスを受けたのは、大きな収穫でした。
不貞による夫婦離婚問題について
浮気は、法律用語では『不貞行為』
民法上の『不法行為』の一種とされています。
不法行為によって損害を被ったひとは、相手に対して損害賠償請求ができると法律で認められています。
我々探偵・調査業者は、この『不法行為』を成立させるため、証拠を確保するのです。
しかし、中には下記のような少し変わったケースがあります。
- 「性行為に至らない関係の場合、不貞行為(浮気)だと認められるか」
- 「入籍していない内縁関係の場合、不貞行為が成立するか」
- 「同性間(男と男、女と女)の性的行為の場合、不貞行為と言えるのか」
- 「法律上、【不貞行為】であると認められなかった場合、浮気した責任はまったくなくなるのか」
どれも、探偵業務の中で想定されるケースです。
それぞれについて、見ていきましょう。
1「性行為に至らない関係の場合、不貞行為 (浮気) だと認められるか」
配偶者以外の相手と接触し、どう見てもお互いに好意をもった特別な関係で、しかし性行為にまでは至らない場合。
実は、私が調査していても、こういうケースは比較的よくあります。
異性と密会はしていたものの、ドライブや食事だけで、ラブホテルには行かないという状況。
さまざまな理由が考えられます。
①そのときはたまたまそういう流れにならなかった。
②時間や肉体的な余裕がなかった。
③女性のほうのカラダの事情。
④警戒している。
⑤プラトニックな関係である。
最低限の時間だけ調査する、ピンポイントプランであれば、調べた日がたまたまハズレということもあるでしょう。
しかし、接触自体はたしかにあったし、ラブラブな雰囲気の、あるいは手をつないだりキスしたりしている写真は確保できた。
ではそれで、浮気として成立し、賠償請求は行えるか?
……答えは、「できない」
印象や雰囲気は考慮されず、不貞行為の成立には「明白な肉体的接触」が必要です。
ラブホテルに入るか、個室で長時間二人きりで過ごすなどの証拠がなくてはなりません。
上記のような状態の場合、さらなる調査を進めるへきでしょう。
①~④のケースであれば、いつかは証拠が取れるはず。
問題は、⑤の場合です。
現行法であれば、プラトニックな関係に留まる二人の「不貞証拠」を立証することは、非常に難しいと言わざるを得ません。
2「入籍していない内縁関係の場合、不貞行為が成立するか」
結婚して籍が入っていない場合、相手が他の誰かと浮気しても「不貞行為」として認められないか。
愛人は泣き寝入りするしかないのか。
それほどよくある状況ではありませんが、このようなケースの場合、大事なのは内縁状態の期間です。
民法上、内縁の妻であっても、成立要件を満たせば、「事実婚」として、正妻同様の権利が認められるからです。
不貞行為に対して賠償請求も可能ということです。
……答えは、「できる」
ただし、内縁関係での浮気の賠償請求は、金額が低くなる可能性が高いとのことです。
3「同性間(男と男、女と女)の性的行為の場合、不貞行為と言えるのか」
いわゆる『LGBT』……セクシュアル・マイノリティの問題です。
男性同士、女性同士の恋愛についての造語で、【L】……レズビアン(女性同性愛者)、【G】……ゲイ(男性同性愛者)、【B】……バイセクシュアル(両性愛者)、【T】……「トランスジェンダー(性別越境、性別違和)の頭文字をとった、新しい言葉。
世には、このような人びとが少数ながらもちゃんと居て、その権利は認められるべきとされています。
問題は、自分の夫や妻がその【LGBT】だった場合。
理由は様々ですが、このようなマイノリティの人びとでも、通常の異性間結婚をすることがあります。
そして、中には浮気をするひとだって居ます。
まず「そもそも両性愛者だった」というケースがあります。
そして「本当は同性愛者だけど、世間体や経済的な理由から偽装結婚した」パターンもあるでしょう。
そのようなひとが浮気した場合、「男と浮気した夫」「女と浮気した妻」というきわめて特殊な状況が生じます。
それが「不貞行為」にあたるかどうか……という問題。
弁護士によると、類似のケースが希少で、判例も少なく、判断の難しい問題とのことです。
マイノリティ(希少)な人びとの問題であり、なおかつ、その中で浮気するひとはごく少数でしょうから、当然と言えます。
……答えは、とりあえず「認められない」(ただし、最近は変わりつつある)
裁判の結果である「判例」は、時代とともに少しずつ変わっていくもの。
新しい価値観は新しい判例を生み、新しい判例は、新しい法的根拠を作ります。
LGBTの浮気問題は、今はまだ数も少なく、定義上は
とされていますが、今後はわかりません。
3「法律上、【不貞行為】であると認められなかった場合、浮気した責任はまったくなくなるのか」
上記の例で、「不貞行為」を認められなかった場合、相手の責任は一切ないのか?
相手はやりたい放題、やったもの勝ちで、なにもオトガメなしか?
そんなことはありません。責任は発生します。
「不貞行為」には厳密に相当しなくても、民法上、「婚姻を継続し難い重大な事由」という『離婚原因』に該当する可能性がありますから、離婚自体を求めることは可能です。
離婚する場合、相手は有責配偶者となるので、有利な条件を請求が出来るでしょう。
ただし、不法行為としての賠償請求は難しいそうです。
その他の「不貞行為の話」
他にも、弁護士さんからは興味深い話を聞けました。
慰謝料の支払い義務のない浮気相手?
最近の報道で、
という内容があったそうです。民法を否定し、弁護士や探偵の仕事を否定するような、重大事例となり得るケース。
ですが、この報道にはカラクリがあり、ミスリードを誘う発表のされ方だったようです。
この『浮気相手』は、不貞行為についての慰謝料は請求されなかったものの、夫婦関係を壊した責任としての『慰謝料』はしっかり払っているとのことでした。
単に支払いの名目上の問題であって、自分の不法行為の償いとして、ちゃんとお金は払っているわけです。
それを、あたかも「浮気した愛人でありながら、不貞行為の慰謝料請求はされなかった」と、誤解を招く報道がされたわけです。
浮気問題だけに限りませんが、ニュースというものは、限られたスペースでの数行の文章だけで発表されるもの。
その背景や詳しい事情は、見えない場合が多いです。
おまけに、発信者はそれを承知で、ときに意図的に受け手の印象を操作することがありますから、早合点は禁物です。
慰謝料の相場 (2019年版)
慰謝料の金額は、本人の資力、婚姻期間、子供の人数、不貞行為の悪質さなどを考慮して決められます。
現役の弁護士による慰謝料相場は、「100~300 万円」とのことでした。
地域性もあるでしょうが(今回の講師は熊本県の弁護士さんでした)、福岡の探偵である私の実感としても、やはり同程度という認識です。
余談ですが、不貞行為は
といって、浮気した本人とその相手とが二人で行う悪さです。慰謝料の支払い義務も、当然、両方が負うことになります。
もし、どちらかが慰謝料を全額支払った場合、その半分を、共同不法行為の相手に請求できます。
つまり、浮気した旦那が300万払ったとしたら、その男は浮気相手の女に150万請求できる、ということです。
(じっさいは、そういうケースはマレだと思いますが)
探偵の料金の請求
浮気をされた被害者は、探偵にかかった調査料金を請求できるか。
これに関しても、弁護士さんから体験に基づく解説がなされました。
結論を言うと、「出来るが、たとえ契約書や領収書があっても、全額の請求を認められるかはわからない」
常識的な金額であれば認められる可能性は高いものの、例えば100万とか200万などの高額の探偵料金を、そのまま相手にかぶせられるかは、難しいとのことです。
探偵・調査業者の中には、100万200万の高額の契約に誘導し、
「どうせ全額、浮気した相手に請求できますから、実質の負担はゼロですよ」
……と営業するところもあります。
弁護士さん自身も「自分の依頼人の中に、探偵からそう言いくるめられた人も居る」と苦笑していました。
しかし、じっさい、それは難しいことは知っておくべきです。