私は絶対にミスをしません。
……と。そう言えればいいんですが、じっさいは私もミスをします。
あれ? 前の記事で「完遂率100%」とか、ドヤ顔で書いてなかったっけ?
と思われそうですが、依頼の遂行に支障をきたす「致命的なミスはしない」ということです。
そもそも「絶対にミスしない」のがプロではありません。そんなのはファンタジーのキャラクターだけ。
プロとして仕事を確立している人
社会的に勝ちまくっている人
競技の第一線で活躍している選手
誰がどう見ても並外れた傑物……
誰に聞いても私と同じことを言うはず。ミスしないなんて不可能だ、と。
大事なのは、「絶対に犯してはならないミスは避けること」「ケアレスミスをいかにすばやく修正するか」なのです。
……さて、イイワケを前置きしたところで、具体的にここ最近、私が現場でやらかしたミスを列挙していきましょう。
なぜ、依頼人も見るこの場所で、わざわざ自分のミスをさらすのか。
それは、「単に不運だった」「油断しただけ」などと、適当にスルーしないためです。
自分のミスときちんと向き合い、問題点を洗い出し、今後に活かすためです。
前述した他のプロフェッショナルたちも同様であると私は信じます。
やっちゃった1 「高速道路でICを乗り越しちゃった」
対象車両にGPSを付けて監視していると、ふと気づいたとき、とんでもない動きをされていることがあります。
こちらも別のことに気を取られてると、常にリアルタイムで監視というわけにはいきませんから、ふとGPSの管理画面を見て、
「は? なんで高速乗って山口県になんか居るの……?」
……てこともあるわけ。
『予想外の動き=確かめるべき不審な行動』
ですから、何をおいても、とにかく追跡します。
しかし、相手は高速道路を激走しているわけで、いくらこっちも高速を使って急いでも、距離の差は埋まりません。
とくに100キロくらい離れた相手となると、どこかでしばらく停止してくれないことには、まず捕捉は不可能。
それでも、道交法で検挙されないよう気をつけながら必死で追いかけます。
さて、そういう予定外の緊急出動の場合、スタッフと合流できず、私一人で追ったりという局面がよくあります。
(逆に言えば、私が一人でも調査可能の探偵だからこそ、もり探偵事務所では緊急対応可能なのです。同じ状況でも、調査員がすぐ準備できない調査会社であれば「今からじゃムリ。対応できません」となるでしょう)
そんな状況下、一人でナビを見て、GPSで相手の経路を確認して、運転して、周囲に気を配って、到着後の調査の流れを脳裏で組み立てて……
と、とにかくタスクはパンパン。頭はビジー状態に。
気がついたら、
「あ」
と降りるべきICを通過してしまうハメに。
ただでさえ時間的猶予のない、必死の緊急追跡のさなかです。
ICを間違えてしまうことは、かなりのタイムロス。
今回の現場では、相手が降りてすぐの飲食店でしばらく食事してくれたので、無事に対象車両を捕捉でき、調査も問題なく完了しました。
が、この30分のタイムロスが、調査の失敗もしくはクオリティダウンに繋がらないとも限らなかったのです。
「猛省…」
やっちゃった2 「設置した隠しカメラを回収し忘れちゃった」
調査の現場では、隠しカメラを設置することが多々あります。
とくに、相手がイレギュラーな動きをして、見知らぬ場所に行った場合、そこで何をしているかは非常に重要。
しかし、どんなに急いでも相手に追いつけず、駐車した車は発見できても、降りてどの建物に入ったか分からない……なんてこともよくあります。
探偵としての経験・スキルから、ある程度目星をつけることは可能です。
たとえば、単純に可能性だけで対象者が入ったっぽい建物が6つあったとします。
ふつうの探偵なら4つくらいに絞れるでしょう。
私ならさらに2~3箇所に絞り込めます。
それでも、スタッフと合流できないままソロ調査を敢行した場合など、その2~3箇所でも、一人ではすべてをカバーできないことがあります。
そんなとき真価を発揮するのが、隠しカメラ。
これを、とにかく対象が出てきそうな建物のすべての出入口に設置しておくわけです。
こうすれば、「どの建物から出てくるか」が分かり、その証拠写真も確保することができます。
さて、先日の現場はまさしくそんな状況でした。
しかも難しい立地で、対象者が入ったと推測される建物が、それほど絞れませんでした。
私は、とにかく隠しカメラを片っ端から設置しました。5箇所くらい。
けっきょく本命と思った建物から現れ、その映像も問題なく確保。
しかし、怪しい行動でもなく、調査的には意味のない動きでした。(いわゆる空振り)
こんな遠くまで来て空振りか……。
仕方なく私は、地元の名産品でも食べて帰ることにしました。
(契約的に、すべてコミコミのおまかせプランだったので、交通費も実働分のギャラも発生せず、手弁当なのでした。美味しいもの食べるくらい、バチは当たりませんよね?)
さて、名物料理も堪能し、私は「やれやれ」と高速に乗りました。一路、福岡を目指します。
80キロくらい走って気づきました。
「あ」
カメラ忘れとるやん。
連日の調査でただでさえヘロヘロ、睡眠不足だったというのに。
それでもいきなりの緊急出動に対応し、遠くまで車を走らせて、やっと帰れると思ったのに……。
私は80キロ引き返して現場に戻り、設置した隠しカメラをすべて回収しました。
もう遅いし、現場に泊まって帰れればよかったんですが、翌日また別の現場が、朝から予定されていたのです。
私は、とにかく事故らないよう気をつけながら、家路につきました……。
「なんなんだよチクショウ…」
やっちまった3「事務所のエアコン5日つけっぱなし」
最近は依頼が重なり本当に忙しいです。
探偵は、調査道具と資料を肌見放さず持ち歩いてますから、とくに事務所に戻る必要もなく、場合によってはずっと出っぱなし。
自宅と現場をひたすら直行直帰……ということもザラです。
そんなわけで、5日くらい事務所に行ってなかったんですが、エアコンを消し忘れていたことに私もスタッフも誰一人気づかず、ずっとつけっぱなしにしてしまいました……。
リモコンや家電アプリの導入を真剣に考えなくてはいけませんね。
「電気代…」
やっちまった4 「機材の充電し忘れ」
今回のミスで一番やらかした件です。
消耗した調査機材の電池を、充電し忘れたまま現場に出てしまいました。
もちろんモバイルバッテリーや車載充電器はいつでも装備してあります。
が、基本的に探偵用の機材は使い方が特殊なので、しっかりした電圧で充電しないと充分とはいえないのです。
おまけに今回は連日の調査のせいで、モバイルバッテリーすらスカスカでした。
探偵にとっての調査機器は、兵士にとっての銃のようなもの。
「電池の切れそうなカメラで現場に出ることは、弾の入っていない銃で戦場に行くようなものなのだぜ……?」
これが助手や他のスタッフがやらかしたミスならば、そう言って私はお説教したことでしょう。
自分がやっちまってたら、世話ありません。
電池が切れそうな複数のカメラを、リレーしてだましだまし使うことで、なんとか問題なく終わらせはできました。
が、余計な気苦労と労力を使ってしまったのは、大きな反省点でした。
「戦場…」
ミスの分析
これらのミスの原因は明らかです。ズバリ……
「多忙による疲労と、それに起因する集中力の低下」
私は絶対にミスをしない、機械のような人間ではありません。
たとえば、気を張る必要のない私生活においては、かなりのウッカリ八兵衛です。
それでも、こと探偵業に関しては、できるかぎり集中し、ミスしないよう、心がけているつもりでした。
致命的な失敗を避け、それでも生じる細かいミスをうまくフォローする……それがプロです。
しかしそうは言っても、致命的なミスは、いつだって小さなミスから始まるもの。軽く考えるべきではありません。
どんな小さなミスもないよう、集中して、真剣に業務に当たる → でも人間だから細かいミスは発生する → 集中し、危機感さえ持っていれば、それを速やかにフォローできる
……基本姿勢は常にこうあるべきです。
でも、度を越した疲労は、この基本姿勢に、大きなマイナスの影響を及ぼします。かんじんの集中力を著しく低下させてしまいます。
「疲れていると、ついついミスしちゃう」
言葉にすると単純です。ですが、じつはそれほど単純な問題ではありません。
特別なことができる人間には、その人物にしか任せられない特別な作業が、集中してしまうからです。
つまり、結果を出せるプロには、一定量以上の仕事が常に課され、その状態はいつまでも解消されず、慢性的な疲労状態から脱せられないわけです。
とくに探偵は特殊な仕事で、休みを自分でコントロールできません。
「疲れているし、今日は休むぞ!」
と決めても、とつぜん対象者が山口県とかに行ってしまうと、出動しないわけにはいかなくなります。
通常、どんな専門職でも、受けた仕事には優先順位を付けて、バランスよく処理していけるよう、スケジューリングします。
しかし探偵にとって、優先順位は常に「決定的な証拠を取れるチャンス」が一番。
バランスよくとかうまくスケジューリングとか言ってられません。
それは、自分の都合ではなく、調べている対象者の動き次第という、なんとも予想も調整もできないものなのです。
今年が始まってもう9ヶ月。
ここまでに溜まった疲労のせいとはいえ、高速の出口を間違えたり、設置したカメラの回収を忘れたり、事務所のエアコンつけっぱなしにしたり、カメラスマホの充電を忘れてしまったり……
ここでしっかり反省したところで、うまく疲労を解消し、一度気持ちをリセットし、集中力を復活させ、隙のない業務に戻りたいと願っております。