探偵シルエット

10月1日はもり探偵事務所の創立記念日でした。

2000年10月1日に開業。創立23周年。そして24年目に突入です。

私立探偵という異端中の異端である人生を、23年間続けるということが、どんな心境なのか……

それは、23年間私立探偵で居続けた者しか分からないことでしょう。

説明するのは難しく、もしうまく説明できても、絶対に【すべて】を伝えきることはできません。

ただ、ひとつだけ言えることがあるとしたら。

私は探偵として生きてきた23年に、まったく後悔はないということです。

 

さて、そんな節目の時期にさしかかったせいでしょうか。私にとっても「珍しい」と言える一日がありました。

その日、調査の現場はなかったのに、とにかく色々なことがあって、にぎやかだった一日です。

まず、現在受任中の依頼人2人と連絡をとりました。まあ、定期連絡と今後の打ち合わせです。

それから、元依頼人2人からご連絡がありました。

1人は、2年ほど前から定期的に連絡を取っている依頼人さま。もり探偵事務所のGoogleMapに、とても好意的な投稿をしてくださった方です。

探偵としての私の仕事に区切りはついていますが、その後のアドバイスもできる限りしており、今回は、また別のカタチで探偵としての私の力が必要とされるかも……そんな話でした。

 

もう1人の元依頼人さまは、新しい依頼人を紹介してくれるという連絡でした。

なんでも、ほかの探偵にすでに依頼しているものの、そこが満足とはほど遠い仕事しかしなかったため、あらためて、結果を出せる探偵として私を紹介したいとのこと。

その新しい相談者とも、さっそくアポをとりました。ここまでで、すでに5人

 

それから、弁護士2人と電話で話しました。

1人は誠実な人柄の若手男性弁護士で、依頼人からの紹介で知り合った相手です。

定期的に情報交換しており、今回は、私が受任中の案件に法的アドバイスをしてくれました。

さらにもう1人、新たに連絡を取った女性弁護士です。

これまたGoogle口コミに好意的な書き込みをくださった依頼人さまのご紹介。家事・離婚問題に強い女性弁護士らしく、この新しいコネクションは、もり探偵事務所にとってプラスになると期待しています。

ここまでで、依頼人2・元依頼人2・新規の相談者1、そして弁護士2の合計7人。

 

これだけ色々な相手と一日で話すだけでも珍しいのに、フィナーレを飾るサプライズが用意されていました。

今から23年前、私が探偵になってまだ5ヶ月目に受けた依頼の【紹介者】からの電話です。

それは忘れもしない案件。私の初めての、そして今のところもっとも大きな失敗だった件です。

 

2001年3月。

探偵を開業して以来、私は連戦連勝。どんな難しい現場もこなして成功率100% 。結果を出しまくっていました。

当然、そんな状況がいつまでも続くわけはなく、ふとした油断から、私はついに最初の失敗をしてしまいます。

その依頼の紹介者がAさんでした。

Aさんは、私が探偵を始める前からの知人で、

「もりが私立探偵なんて始めたときは驚いたけれど、似合っているし、きっとうまくやっていける」と言ってくれた人でした。

身近に困っている人が居て、それで「探偵業を始めた知人が居る」と、私を紹介してくれたのです。

なのに、私はその大事な案件で失敗してしまいました。

 

詳細は述べませんが、調査そのものの失敗というより、そのフォローを焦るあまり、探偵として超えるべきではない一線を超えたことが、何よりも大失敗だった件です。

当時の私としては、誠実に責任をとろうと考えての行動でした。が、Aさんからすれば、

「探偵歴5ヶ月の若造が失敗し、事態を自分で収拾しようと、出過ぎたマネをした」

……と映ったのでしょう。じっさいそう見られても文句は言えませんでした。

期待値が高かっただけに、Aさんの失望も大きく、とうの依頼人以上に立腹されました。

私は辛辣な言葉を浴びました。

 

「探偵失格」「プロ失格」「大手の調査会社ならきっとそんな出過ぎたマネはしない」「そのまま探偵を続けても、ぜったいうまくいかない」

なかなかの言われっぷりです。

でもそこでへこたれず、乗り越えたからこそ、今の私が居るわけです。

そんなAさんからの、23年ぶりの、とつぜんの電話。

激しい言葉を受けて以降、まったく関わりがなかったため、驚きました。

しかし、世の中というのは本当にうまくできていて、ここにもうひとつのサプライズが隠れていました。

 

なんと、私が数年前に手がけ、文句なしの成功を収めた案件の依頼者が、そのAさんと知り合いだったのです。(Sさんとしましょう)

そのSさんが、「スゴくいい探偵と出会い、問題を解決してもらった。本当に感謝している」と、Aさんに話したというではありませんか。

Sさんが依頼し満足した探偵…… (もりという名はすぐに出さなかったそうです)

その話を聞きながら、Aさんは心のなかで、

(そういや探偵といえば、もりはどうしてるのかな。自分がボロクソ言ったから、辞めちゃったかな……)

と思っていたらしいです。

 

「腕のいいベテラン探偵」と、「開業5ヶ月目の探偵」とが、すぐには結びつかなかったのでしょう。

しばらく2人は話し、じつはその探偵が同一人物、もり探偵事務所代表の森であると知ったのです。

Aさんは、すぐさま私に電話をかけてきました。23年ぶりに。それがこの日のことです。

元依頼人がさらに1人追加。そして、はるか昔、開業したばかりのころの紹介者が1人。これで合計9人です。

そして、9人目がそんな相手だったことに、私立探偵という人生のドラマチックさを感じずにはいられません。

 

探偵歴23年を越え、1000件以上の現場をこなし、福岡でもベテランの域に入った今の私ですが、「あれからすっかり一人前の探偵になりました!」などと、自分からAさんに連絡をとったりはしませんでした。

しかし、私が自分の口から言わずとも、いい仕事をし、満足してもらえた依頼人さまに、進んで「もりさんはすごくいい探偵だった。ホンモノの探偵さんだった!」と言ってもらえたのです。

私は、自分の行動、自分の仕事ぶり、自分の人生そのもので、若き日の失敗をある意味フォローしていたわけです。

この日、AさんとSさんのおかげで、それを実感することができました。

 

自分の中ではとっくにケリがついていた案件です。

ですが、こんなカタチで予期せぬフィナーレを迎えることができ、私はつくづく探偵をやってきて良かったと思いました。

作り物のドラマや、架空のエンタメではなく、リアルな人生でこんなドラマを体感できるなんて……

探偵を選んだ23年前の自分に言ってやりたいと思います。

「おまえがいまから選ぶ道は、なにもまちがってはいない」

 

月とひまわり