張り込みと隠しカメラのリスク【探偵の王道は アナログ調査】
炎天下の調査
連日40℃近いというのに、先日の調査では、エンジンを切った炎天下の車内に、三時間張り込みました。
もちろん、私だってクーラーはつけたかったんです。
でも、シビアな調査の現場では、「エンジンをつけた車が長時間停まっているだけで、通報され、警官が駆けつける」という状況がたまにあるのです。まさに今回がそれでした。
探偵であれば警察も見逃してくれる、なんてことはありません。
調査会社には、「ウチは警察に顔が効くから大丈夫」と豪語するところもありますが、ハッタリです。
自称・元警察の探偵
たしかに、探偵には元警察官というタイプが居て、勤務していた所轄の警察署には顔が覚えられていることもありますが、そういうひとはだいたい厄介なOBとして嫌がられています。
警察官とて、妙なことに関わって出世街道を外れたくはありません。
だから、公務員法違反を強要してくる面倒くさいOBとは関わりたくないというのが本音なのです。
ましてや、警ら中のパトカーに対するOBの影響力なんて皆無でしょう。
愚直こそ調査の王道
結局は『通報されないように張り込む』……それしか正解はありません。
そこで登場するのが隠し監視カメラ
プロの探偵らしく、秘密機材を設置すれば、無理な張り込みはしなくていい……そう考えるのが自然でしょう。
実際に、ほとんどの探偵は、張り込みが厳しい現場では、隠しカメラを設置して調査を行います。
それを聞いた若い同業者の中には、
「プフー。それ、機材持っていない貧乏探偵か、使いこなせないオッサン探偵ですよ」と、一笑にふす探偵も居るかもしれません。
しかし、そんな底の浅い話ではないのです。
私のこの慎重さを笑うのは、たいした場数を踏んでいない経験の浅い探偵か、トラブルは依頼人にすべておっかぶせ、保身に走る無責任探偵のどちらかでしょう。
調査対象者の反撃
調査対象者の中には、ときどき、とても手強い相手が居ます。
自分の弱みは握らせないよう慎重に行動しつつ、依頼人サイドの落ち度を虎視眈々と狙う……そんな強敵です。
そういう相手は、浮気調査をしてもなかなか尻尾を出さないばかりか、自分を誰かが調べていないか、逆に突き止めようとします。
そんな相手に、ヘタに隠しカメラなんか使おうものなら、
「こんな違法機器を設置され、プライバシーを激しく侵害され、平穏な暮らしを破壊された!」と、探偵や依頼人を攻撃してきます。
その時点で、相手の弱みである『浮気の証拠』を確保できていればまだいいです。
でも、もし確保できていないとしたら……
一方的に依頼人が相手から責められ、マズい状況になってしまうおそれがあります。
探偵の保身
ほとんどの探偵は、調査前の契約書にて、『調査中に発生した問題やトラブル、その結果生じた依頼人の不利益に対して、一切責任は負わない』という条件を設けます。
具体的に言うと、「隠しカメラやGPSを使用し、それがバレて依頼人がマズい立場になっても知らない」ということです。
これを上手く書いた契約書にサインさせ、保身をはかります。
つまり、依頼人さまだけが、不利益をすべて負うことになるわけです。
もちろん我々も、プロとして不特定多数の業務を請け負う以上、最低限の線引は必要です。
ただでさえリスクがある『行動調査』において、何もかもすべての責任を負うのは、さすがに出来ません。
身を守る条件や特記事項は、継続して仕事を続けていくため、どうしても必要なものではあります。
しかし、依頼人さまからすれば、無責任な「逃げ」の項目であることも否めません。
慎重さは依頼人のプラスになる
だからこそ、リスクはできる限り避ける、慎重なスタンスがなにより重要です。
それは、言ってみれば、【探偵の良心】なのです。
調査は楽になるけれど、万が一の場合依頼人さまが不利になる機器はなるべく使わず……
「難しい現場でも、知恵を絞り、なんとか張り込める場所を探し出す」
「たとえ異常な酷暑であっても、エンジンを切った炎天下の車中にひそむ」
……これらを選択する探偵は、「自分が消耗することでリスクを抑えられるなら」というプロ意識を持っているのに他なりません。
そして、私が便利な機材に安直に頼らず、ドロくさい、体を張ったアナログな調査にこだわる理由でもあります。
すべては依頼人様のために
もしトラブルが起きても、契約で自分を守り、必要以上の責任を負わない……
そう割り切って調査をするのが、探偵業者としては楽です。
張り込みが難しい場所であれば、「調査中にトラブルが起こっても、探偵に責任は追求しません」と依頼人にサインさせ、さっさと隠しカメラを設置すればいい。
しかし、そうすることで、万が一のとき、依頼人様に不利益が生じてしまうなら……
そのリスクまで計算し、できる限り回避するのが、良心的な探偵です。
覚えておいてください。
私は『機材を持っていない貧乏探偵』でも『使いこなせないオジサン探偵』でもありません。
ただ、長年の経験で、
『現場ではなにが起こるかわからない』『隠したものはふとした弾みですぐに見つかる』『対象者の中には、こちらの落ち度を探す強敵が居る』『発覚リスクはすべて依頼人様の不利益になる』『自分が消耗して大変な目にあえば、リスクは限りなく抑えられる』
……それを身にしみてわかっているだけなのです。
隠しカメラ設置リスクの目安
最後に、現場における、『隠しカメラ設置リスク』の目安を記します。
左ほど発覚リスク(つまりは依頼人様の不利益)が高くなります。一番右のリスクは0%です。
【偽装】 偽装せずに設置 < 偽装して設置 < 充分な偽装を施して設置 < 隠しカメラを使わない
【設置】 一般の方が設置 < 新人調査員が設置 < 熟練探偵が設置 < 隠しカメラを使わない