デジタル探偵

探偵業界の不思議なジェネレーション・ギャップ

以前も少し触れましたが、私は、年配の古参探偵とも、若い新人探偵とも、ニュートラルな立場で接することが多いです。

そこで気づいたのが、探偵ジェネレーションギャップ。

でもそれは、「年配探偵……アナログに固執」「若手探偵……デジタル賛美」という月並みなものではありません。

そこで感じたのは、

「年配の探偵=デジタルを美化」「若い探偵=アナログに過剰期待」という不思議な構図でした。

今回は、それを見ていきます。

 

デジタル戦で苦戦する古参探偵

探偵業界には定年がなく、私の知る現役最高齢は70歳くらいです。

それは極端な例ですが、探偵業界も高齢化は否めません。

 

探偵・調査業者は、一年目の廃業率が異様に高く、三年以上続く業者は数えるほど。

10年以上続けば拍手される……そんな、生き残りの難しい業界です。

そのかわり、ある程度生き残れた探偵は、その後はしぶとく、したたかに生き続けます。

だから、業歴20年30年という探偵も、探せばけっこう居ます。

 

そんな、長年生き残ってきた50代・60代のベテラン探偵たちが、みな直面している問題が、新しい時代の広告手段。

SNSとSEOです。

 

広告といえばアナログの時代

50代60代で業歴20年以上という古参探偵にとって、広告といえば、第一にタウンページでした。

次に看板。そしてチラシタウン誌なんかがそれに続きます。

つまり、広告と言えばアナログだったわけです。

 

しかし、今どき電話帳に力を入れる探偵などほとんど居ません。

広告の主役は、とっくにネット、そしてSNS……これは何も探偵業界だけの流れではありません。

 

デジタルとの親和に苦戦する年配探偵

ベテラン探偵にしても、頭の固い年寄りばかりではありませんから、時代の流れに乗り、柔軟に対応しようとしています。

けれど古い時代の人間が、デジタル・ネイティブのように、おいそれと使いこなせるものでもありません。

とくにSNSなど、長年影として生きてきた探偵にとっては、そもそもが相性の合わないもの。

 

素直に対応したい、取り入れたいという気持ちはあっても、なかなか親和できず、苦戦している年配探偵は、おおぜい居ると思われます。

それでも年配の探偵は、「デジタルに対応することが、新しい時代の探偵の必須スキル」と、必死になってブログを書いたり、こまめにつぶやいたり、動画をアップするといった努力を続けています。

 

デジタル・ネイティブ探偵は?

年配の探偵が、いくらSEOやSNSをがんばっても、やはり20代30代のデジタル世代には太刀打ちできません。

皮肉な話ですが、調査技術や現場経験で圧倒的アドバンテージを持つ探偵が、こと広告という分野では、若手・新人探偵に遅れを取っているのです。

そして、これもまた皮肉なことに、探偵・調査業でなにより重要なのが、営業力……つまり広告です。

 

では、駆け出しで、現場経験も浅いデジタル探偵たちは、それでもSNSを駆使し、古参がうらやむほど依頼を取っているのか……?

年配の探偵はそう考えます。私も少なからずそう思っていました。

しかし、何人かの若手探偵と話して、「そうとも言い切れない」と少しずつわかり始めました。

 

苦戦するデジタル・ネイティブ探偵

たしかに、20代30代の若手探偵は、ネットも使いこなせるし、SNSにもまったく抵抗がありません。

でも彼らが口をそろえて言うのは、「ただ使うのと、バズるのは、ぜんぜん違う」ということ。

若いからといって、必ずしもフォロワーをたくさん増やしたり、PVを稼いだり、インフルエンサーになれるわけではない、ということです。

 

デジタル・ネイティブの中にも激しい競争があり、そこで旨味を得られるのはごくごく一部の勝者。

「オッサン連中は、若い人間がツィッターしたりYou Tubeしたら、すぐ何万イイネもつくくらいに思っているけど、じっさいはそんな甘いものでもなく、いくらインスタしようが、TikTokしようが、ぜんぜん見られもしない……」

彼らは一様にそう言います。

 

コミュ力の低いデジタル・ネイティブ探偵

さらにもう一点、彼ら若手探偵が嘆くのは、「コミュ力の不足」です。

我々オッサン……いやベテラン探偵は、杓子定規に「デジタル探偵はきっとコミュニケーションが苦手なはず」と思い込んでるフシがあります。

でも、それもあながち間違いではないらしく、私が話した何人かの若手探偵は、

「せっかくネット経由が相談が来るのに、うまくコミュニケーションが取れず、受任に結びつかない」と嘆きます。

 

じっさいに、私が彼ら若手探偵と話したとき感じたのは、コミュニケーションの不慣れさ

まず、電話の応対がイマイチ。

声が小さく、抑揚もなく、会話をリードしたり、相手の話をしっかり聞いているという手応えがありません。

直接会って話しても、やはりどこか人間味が希薄というか、機械と話しているような違和を感じました。

ぶっちゃけて言うなら、「この相手と会話を続けたい。この人の話を聞いたり、自分の話を聞いてもらいたい」という意欲が湧きません。

 

探偵として話術スキルがある私でも、会話を続けるのに苦心したくらいですから、顧客との対話が上手くいくとも思えませんでした。

彼らの頭が空っぽとか、性根が悪いとかではありません。

むしろ頭の回転は早いし、人間的にも素直で、こっちがうまく誘導すれば、会話はちゃんと成立します。

ただ、「とにかく会話の経験が圧倒的に不足している」と感じるだけです。

 

そしてアナログに活路を見出す逆転現象

若手探偵は、ネットやSNSの戦場がどれだけ厳しいか、よーくわかっています。

インフルエンサーと言われる人種が、バズらせるため、あらゆる手段を選ばないのも、その厳しさを物語っています。

だから、最初から、デジタルでの競争はあきらめ、別の方向に活路を見出そうとしているようなのです。

それが……なんとアナログ

 

デジタル世代の探偵にとって、電話帳・看板・チラシといったアナログ広告は、ブルーオーシャンに見えるそうです。

また、彼らなりの分析として、「探偵の依頼人はけっきょく高齢者が多いから、アナログ広告のほうが効果が高いはず」と考えているようです。

 

じつに興味深い現象です。

年配の探偵は、なんとかデジタルに融和して生き残ろうとし、若手の探偵は、競争の少なそうなアナログに活路を見出す……

まさに「隣の芝生は青く見える現象」ですね。

 

なぜ隣の家がよく見えるか。その理由は「現状に不満があるから」です。

現状の不満……根っこにあるのは集客の難しさ

アナログ探偵も、デジタル探偵も、つまりは集客がうまくいかないから、自分のよく知らないほうに、過大な期待を寄せるわけです。

 

この問題に対する答えは、私にもわかりません。

私もどちらかと言えば、アナログ寄りの探偵で、デジタルへの融和に苦戦している一人だからです。

けれど、若手・ベテランどちらの話もよく聞き、

知らないものに対する無責任な期待をやめ、問題点を客観的に洗い出し、他がやらないことを、デジタル・アナログの枠組みにとらわれず、広い視野で考え、挑戦すること……

これが、現状もっとも建設的な姿勢なのでは、と考えています。