【医龍】から考える激安良心探偵の罪『ウデは悪いけど親身でイイ人探偵』は誰も幸せにしない。

探偵オススメのマンガ【医龍】とは

医龍』という作品をご存知でしょうか。

坂口憲二さん主演のドラマも好評だったらしく、そっちで知っている方も多いかもしれません。

今回は、私の好きなこの作品を下敷きに、福岡にも存在する『腕は悪いが人間性でカバーの、激安良心探偵』について語りたいと思います。

 

二人の対になる主人公

【医龍】は、神ワザ的技術と、破天荒な性格を合わせ持つ、天才外科医が主人公です。

傍若無人の俺サマでありながら、患者にはとことん誠実。おまけに、手術は天才的……と痛快な主人公。

その対となる存在として、きわめて常識的で、未熟な研修医が登場します。

見るからに凡人で、不平不満をこぼし、ひたすら強い者に巻かれようとする、どうしようもない小物。まあ読者の投影ですね。

しかし、その彼こそが、じつは裏の主人公という、二重構造になっているのです。

(ダイとポップといえば、わかるひとにはわかりますね)

さてこの作品に、印象的な二つのセンテンスが登場します。

まずひとつめ……その未熟な研修医の独白。(意訳します)

 

「自分の経験不足と技術の無さは、誠実さ(人間性)でカバーするしかない」

 

ふたつめは、(それと対となる)天才外科医の言葉。

「技術のない外科医は、それだけで罪だ」

 

私にはそのセリフがとてもとても印象に残りました。

どちらも、プロの探偵に当てはまる言葉だからです。

 

探偵もまた技術職

探偵も専門職である以上、スキルがあり、優劣が存在します。

具体的に言えば、なによりまず『調査力

撮影技術、情報収集能力、話術、記憶力、分析力、行動力といった、結果を出すために必要な総合力です。

医師のように命がかかった仕事ではないにしろ、探偵もまた、依頼人の『人生』がかかった、シビアな仕事です。

たかが浮気調査と言うなかれ。その調査結果は、関わる人間すべての人生を左右します。

だから、探偵の技量の優劣は、依頼人の運命に直結していると言って、過言ではないです。

 

存在してはならない「腕の悪いプロ」は存在する

この天才医師の言わんとすることは明確です。

外科医という仕事にとって、手術を的確に行えるか、失敗しないかは、最低限にして絶対の条件

それができない人間は、そもそも他人の体にメスを入れるべきではない……という話です。

厳しくはありますが、納得のいくプロ思考と言えるでしょう。

命を預かる外科手術の世界。外科医は一定水準以上の技術を持っていなければならない。

……そのはずですが、実際はそうでもありません。ウデの悪い外科医も存在します。

 

腕の悪さは、センスの欠如か経験の不足である

腕の悪い外科医も居る。

そんなショッキングな前提で、医龍の世界は描かれています。(監修は『元医師』という肩書です)

技術には『優劣』もあれば、未熟・成熟といった『経験』もあります。

つまり、「ウデが悪い」というのは「才能がない」か「経験がない」かのどちらかです。

でも、患者の立場からすると、どちらも変わりません。

そんな医者には手術してもらいたくない」……それが本音のはず。

 

ウデの悪いプロという存在

そこで、もうひとりの主人公、未熟な研修医の言葉が、意味をなします。

ウデが悪くとも『良心』がある医師は、自分の未熟さも、満足な手術ができないことも、承知しています。

だから、その良心をごまかすため、ことさら優しい医者として振る舞おうとする

……それがこの言葉の真意です。

患者は(あるいは読者は)、こんな二択を迫られているのです。

 

「機械のように厳しく冷たいが、手術の成功率はとても高い医師からの手術」

「人間味があって優しく親身だが、手術はヘボい医師からの手術」

 

さて、あなたが難病になったとき、選ぶとしたらどちらの医師?

 

では探偵の世界はどうか?

私がこの話を長々としたのは、これがそっくり探偵の世界にもあてはまるからです。

探偵にもまた、『技術の優劣』『経験の未・成熟』が存在します。

他人の人生に関わり、重大な個人情報を扱う以上、すべての探偵は、最低限の技量を備えたプロでないといけない……。

でも、プロを名乗れるレベルにない探偵も居るのが実情です。

 

探偵は腕が悪くても、他の能力で生きていける

探偵に求められる能力は広く、純粋な『調査力』だけではありません。

これが意味するのは、つまりこういうことです。

 

「調査力が傑出していても、他の能力が足りないせいで、プロとしてやっていけない探偵が居る」

「調査力は無いのに、営業力やその他の能力で、プロとしてやっていける探偵が居る」

 

探偵の世界は、腕がすべてではないのです。

 

どうしてウデの悪い探偵もプロとして生き残れるか

「ヘボ探偵がやっていけるほど、探偵業界は甘い世界なの?」

そう思われるかもしれません。しかし、そこにカラクリがあります。

なぜなら、探偵には調査力だけでなく、営業力経営スキルコミュニケーション能力駆け引き力、話術といった、実用的な能力も必要とされるからです。

すべてを自分一人でこなさねばならない【私立探偵】なら、なおさらでしょう。

それが、皮肉にも「ウデの悪い探偵が生き残れる理由」になってしまっているのです。

 

良心的で腕の悪い探偵は、失敗しても責められない

そしてもうひとつ。

私の知る限り、「ウデは悪いのに続けていける探偵」は、「人当たりがよく、親身で、良心的」という特徴があります。

依頼人の話を一生懸命聞き、優しい言葉をかけ、誠実な姿勢で調査に当たって……

(本当に、マジメに頑張って調査はするようです)

依頼人様も人間ですから、そんなイイ人が失敗しても、つい許してしまいます。

そして、相場としては、激安と言ってもいい調査料金を支払います。

そう。『ウデは悪いけど良心的な探偵』のもう一つの特徴は、『激安』ということ。

 

ウデの悪い探偵は、激安という特徴がある

「ちゃんと頑張ったし、安かったから、失敗しても許される」

……これが激安ヘボ探偵が生き残る理由です。

しかし、冷静に見れば、依頼人にとっては、何も解決していません。

依頼人に必要なのは、優しさでも親身な言葉ではなく、『決定的な証拠』や『価値ある情報』だからです。

その後、依頼人様は、けっきょく新しい探偵を探す必要に迫られます。

今度こそ、ちゃんと結果を出す。

 

激安良心探偵で 失われた4つのもの

いくら、激安かつ良心的な探偵とはいえ、依頼の結果失われたものは、少なくありません。

『熱意』『時間』『機会』『予算』です。

次にウデのいい探偵が、この件を担当したとします。

依頼人にとっては、一度探偵と会って、打ち合わせした後ですから、同じことを繰り返すのは、面倒というのが本音でしょう。

一度目の面談ほどは熱意がなく、話に穴もあるかもしれません。

さらに、貴重な調査機会をロスし、時間的余裕がなくなっていることも多いです。

ウデの悪い探偵が雑な調査をしたせいで、現場が荒らされているケースもあります。

(ヘタに頑張りすぎたせいで、対象者のみならず、周囲の第三者や警察がピリピリしている)

決定的なのは、激安とはいえ探偵に料金を支払ったあとなので、依頼人の予算が減少していること。

 

ワリを食う セカンドオピニオン探偵

依頼人から『熱意』は薄れ、『時間的余裕』もなく、『現場』は荒らされ、『予算』は目減り……

とくに予算の問題は切実です。

「(他の探偵に依頼料を支払ったせいで)あまり予算がなくて……」と、必要な予算が用意できないこともあるからです。

本来、ちゃんと結果を出す探偵に、正当な報酬が行くべきなのに……これでは、誰も幸せにはなりません。

ちょっとグチっぽくなってしまっているのは、私がその二番目の探偵になるケースが、少なくないからです。

 

じっさいに目にした福岡の激安探偵

『激安探偵』に依頼して失敗した人から、『調査の報告書』を何度か見せられました。

そういう依頼人様は、きちんとした証拠がやっぱり必要になり、私に依頼されます。

しかし、先に話した通り、円滑に進むとは限りません。

面談の打ち合わせもスムーズにいかなかったり、

非常に厳しいスケジュールで頼まれたり、

現場に入ってすぐにオマワリさんがすっ飛んできたり、 (なんで調査初日の一時間くらいで職質に来るの?)

あまつさえ「他の探偵にお金払って、もう予算がなくて……この金額でできません?」と、

失敗した探偵より安い金額を提示される始末。

 

ハシゴをする依頼人は 探偵から嫌われる

探偵の世界において、「依頼をハシゴする (探偵を変える)」ことは、良く思われません。

たいてい、トラブルのタネを含む仕事だからです。

特に、他の探偵が失敗した件を引き継ぐ調査員からすると、

「不満足な情報提供」「急かされる時間」「荒らされた現場」「なぜか削られる予算」

四重苦を負わされますから、文句の一つも言いたくなるわけです。

 

それでも嫌われない激安良心探偵

信じられないことに、失敗した前任の探偵自体は、依頼人さまから嫌われていないことが多いです。

「アッチの探偵さんも、いっしょうけんめい頑張ってはくれましたし……」と。

本来なら、もっと責められ、ちゃんと責任を負うべきじゃないかと思いますが……不思議です。

だからこそ、私も天才医師の言葉を借りて、こう言わせていただきたいのです。

「ウデの悪い探偵は、それだけで罪だ」