理想の探偵はいずこ?
長く探偵を続けている私ですが、悩みが3つほどあります。
ひとつめは、【業界の未来】
少子高齢化は、もはや誰が見ても手遅れの様相。
婚姻率は年々低下し、男女関係の価値観も、どんどん変化しています。
当然もたらされる「浮気調査のニーズの減少」は、避けて通れない死活問題です。
ふたつめ。【探偵業の社会的地位】
探偵を開業して、はや20年以上。
あいもかわらず、探偵は資格もなく、免許制度にもならず、士業でもありません。
社会的なステータスは、『自称・探偵』という自由業者のまま。
そして、これからも、当分この状況は続きそうです。
そして、最後のみっつめ。
……それは、業界の星【スター探偵が不在】ということです。
今回は、この問題を掘り下げていきます。
業界のフラッグシップとなる『カッコいい探偵』が居ない
どんな世界においても、その業界をひっぱるフラッグシップが存在します。
たとえば、野球ならかつてのイチローさんとか、ダルビッシュさんでしょうか。
(詳しくないので月並みな発想ですが。今なら間違いなく大谷選手でしょう)
そして、とうのイチローさんダルビッシュさんにもまた、『憧れの野球選手』が居たようです。
憧れや尊敬は、次の世代の憧れや尊敬へと、繋がっていくもの。
では、私たち探偵業界はどうか。
じつは探偵業界には、イチローさんダルビッシュさんのような、業界内外に名を轟かせるスターが、まったく居ません。
皆無。ゼロです。
業界の象徴たりえる、スターの不在……
じつはこれもまた、探偵業界の抱える問題点なのです。
どうして業界のスターは必要か?
その姿に憧れ、目標にする人たちが集まることで、層に厚みが増し、業界全体が活気づくからです。
優秀な子どもたち、才能ある若者、能力の高い人材が、とある業界のスターに憧れ、同じ場所を目指す……
それによって、新しい血がもたらされ、健全な競争が生じ、自然とその業界のレベルは上がるもの。
最近続編の「マーヴェリック」が超ヒットしたトム・クルーズ主演の「トップ・ガン」
初代が放映された80年代、トップ・ガンを見て戦闘機乗りに憧れたアメリカの若者たちは、こぞって米海軍を目指したそうです。
それにより、慢性的な人材不足だった米海軍は、ずいぶんと人材を確保できたといいます。
また、航空自衛隊初の女性パイロットも「幼いころ見たトップガンを見て戦闘機乗りに憧れた」らしいです。
探偵こそはヒーローの職業
しかし、探偵というのは奇妙な職業。
ある意味では、探偵ほど子供たちに憧れられる職業はないからです。
ホームズ、ポワロ、明智、金田一、御手洗、沢崎、そしてコナン……。
人々が憧れるミステリー名探偵は、枚挙にイトマがありません。
一昔前であれば、松田優作さん演じる探偵物語の「工藤俊作」に憧れてこの業界に来た、と公言している探偵も居ました。
リアルな「スター探偵」が不在なかわりに、ファンタジー名探偵がそのポジションに居る……
探偵は、そんな変わった世界なのです。
憧れはやがて失望に
ファンタジーの探偵に憧れる人は、世の中にゴマンと居ます。
その憧れから、【職業・探偵】を目指す人は、けっして少なくありません。
そういう意味では、イチローさんや大谷選手に憧れる少年たちが、将来野球選手を目指す構図と、そう変わりないように見えます。
しかし、じっさいはまったく違っています。
探偵ほど、理想と現実にギャップがある職業はないからです。
たとえば、キャプテン翼やスラムダンクに憧れて、サッカーやバスケを始めた子供たちは、すぐに、マンガと現実は違うと思い知ります。
必殺シュートなんてありえず、ドラマチックな試合展開もそうそうないからです。
けれど、本当に才能や情熱があるのなら、そのギャップが理由で、サッカーやバスケを辞めたりしないでしょう。
サッカーもバスケも、現実のスポーツとして充分楽しく、人生を賭けるだけの魅力があるからです。
でも、探偵はちょっと違います。
ファンタジー世界の探偵が、あまりに非現実的でぶっ飛び過ぎているため、現実の探偵の姿とはかけ離れすぎているのです。
現実の探偵は、バレぬようコソコソしたり、ひたすら忍耐強くじっとしていたり、人間の汚い部分をのぞいたり……。
けっして、健全で、万人向けの世界とは言えません。
このギャップのせいで、きらびやかでカッコいい探偵に憧れてこの世界に来たひとは、おそろしい失望を味わうことになるわけです。
というか、ちょっと賢い人なら、
と、人生の途中で気づきます。
スター不在には理由がある
とはいえ、探偵業界に、ファンタジーの探偵ではない、現実的なスターが存在しないのには、あきらかな理由があります。
そもそも我々探偵が、社交的で開放的とはとても言いがたい、暗く、隠密的な、閉鎖的存在であること。
なにより、有名になって顔が売れてしまうと、マトモな調査ができなくなるからです。
それに、いくらサワヤカで感じのいい探偵が、調査ができなくなること覚悟で、広告塔として表舞台に出たとしても……
……ふだんやっている業務が、他人様に誇れるような内容ではないため、
どうしたって「コワイ」「キモい」「得体が知れない」負のイメージは付いて回るでしょう。
そもそもが、日陰者なのです。
社会的地位とスター探偵が作る 業界の未来
少子高齢化は仕方ありません。
それから逃れられる業種は、日本にはありません。
だからこそ、探偵の社会的地位向上と、スター探偵誕生が、業界の未来のカギとなる、と思うのです。
それはひとえに、探偵を目指す優秀な人材確保のため。
厳しい言い方ですが、単に「探偵を目指すひと」をやみくもに増やすのではありません。
若い、優秀な人材を、です。
探偵が士業となり、ライセンス制となれば、独占業務が生まれます。
そうすれば、探偵にとっての悲願、【安定的な高収入】が不可能ではなくなります。
それにより、今までであれば、他の安定した職業を目指していた人材が、探偵業界を目指す流れが生まれるかもしれない。
同様に、みんなが憧れるカッコいい探偵が居れば、探偵志望の若い層が増え、業界の若返り・健全化に繋がります。
新しい優秀な人材無くして、業界の未来なし。
探偵として、けっして若いとは言えなくなった私ですが、業界の未来のため、活性化・健全化のため、できることを模索していきたいと思っています。