挑戦する男

「失敗をおそれるな」という名言は 間違っている

「失敗をおそれるな」

よく聞く名言ですが、耳触りの良い言葉なだけなのも否めません。

たしかに、失敗をおそれず挑戦することは、大きなリターンをもたらす可能性があります。

しかし、そういう挑戦は、同時に大きなリスクをもたらします。

そして、私たち探偵は、そうかんたんには「失敗」が許されない職業のひとつなのです。

 

「失敗をおそれるな」は探偵的に疑問

「失敗をおそれちゃ何もできないよ」

かんたんに言えるひとは、その失敗をカバーしてくれる、強力なバックがちゃんとあったりします。

パトロンや、所属組織や、裕福な身内です。

そうでなければ、『失敗の損失を他人に押し付けても平気』という、少々ヤバい人でしょう。

いい例が、「借金しても自己破産すればいい」とか、かんたんに言う人。

「債務を帳消し」なんて、貸したほうからすると、たまったものじゃありません。

お金を貸すことは、ある意味、相手を信用すること。

それを「いざとなれば踏み倒せばいい」なんて言えるのは、精神に少々欠陥があるとしか思えません。

 

失敗の可能性がある探偵。ずっと業務を続けていくには

失敗にもいろいろあります。

ドラマではなく、現実の世界では、たった一度の失敗が致命傷になることもあり得るのです。

再挑戦がきかない失敗も多々あるのに、「失敗をおそれるな」と言うのは、短絡的な意見ではないでしょうか。

もちろん、やる前から「失敗」を考えすぎ、それに縛られていては何もできません。

我々、探偵にしても、依頼を受けたときから「ああ。これ失敗するかも……」と頭によぎる人は、プロとして向いていません。

 

ではどうするか。

それは、「失敗しても、自分にだけは損害が及ばないよう、頭を使ってうまく立ち回ること」です。

……というのはウソ。

それをやっちゃうのが、いわゆる『悪徳探偵

複雑な契約書で自分を守り、たとえ失敗しても、ちゃっかり大金を取って、自分たちには非がないと突っぱねる業者のやり口です。

では、失敗の可能性が常にある探偵稼業で、それでもプロとして、安定した業務を続けていくにはどうするべきか?

それは「失敗をおそれる」ということ。

正確には失敗を正しくおそれて、コントロールする」ことです。

 

失敗をおそれるな、という人の典型

「失敗をおそれるな」と言って全力で物事に当たるのは、格好はいいですが、思考は停止しています。

余計なことを考えず目的地まで突き進むぶん、効率はいいでしょう。

うまくいってるうちは、多大な成果も見込めるかもしれません。

しかし、そんな思考停止状態で危険な道を走り続ければ、いつか必ず壁にぶつかるか、ドツボにハマります。

そしてそんなとき、また走り出すためには、誰かに助け起こしてもらうか、誰かを踏み台にするしかありません

これが、「失敗をおそれてはなにもできないよ」とかんたんに言うひとの行動パターンです。

 

失敗を正しくおそれるから、探偵は調査を続けていける

探偵は、正しくおそれ、仕事に当たります。

思考を停めるのではなく、常に最悪の状況を想定し、思い通りにいかない展開を頭に入れ、できることを慎重に、丁寧にやっていきます。

失敗が発生しても(必ず発生します)、それが致命傷になったり、誰かにおっかぶせたりしないで済むよう(探偵の場合、失敗はもちろん依頼人が負います)、うまくリカバリーします。

これが「失敗を正しくおそれる」ということなのです。

 

面倒でもやるのが正しいプロの探偵の姿

「失敗をただしくおそれる」のは、とても面倒です。

走りながら、頭上を注意したり、足元に気を配ったり、周囲を警戒したりするより、

目的地しか目に入れず、何も警戒せず、頭を使わず、全力で走ったほうが、ラクだし早いからです。

しかし、そんなムチャが許されるのは、

尻拭いしてくれる金持ちの親が居るか、強力な組織に属しているか何かあったとき切るシッポを持っている人でしょう。

唯一の例外は、勝ち続けることを天から許された『正真正銘の天才』だけ。

そんな天才ほとんど居ませんから、「失敗をおそれず、突撃できる人間」の99%は、「ボンボン」か「忠犬」か「サイコパス」「詐欺師」というのが、現実の姿です。

 

リスクに挑戦し、なお失敗が許されない人間の 生きる道

裕福なバカ親も居ない。

巨大な組織に飼われてもいない。

反社会的な精神構造も持っていない。

他人を食い物にもしたくない……

それでも、リスクに挑戦し、進み続け、なお致命的な失敗が許されない我々凡人は、たとえ面倒くさくても、

頭を使い、気を配り、神経を集中させ、ビクビク失敗をおそれながら、それを上手にコントロールしていくしかありません。

「失敗をおそれるな」という安直な言葉に、探偵として反論しましょう。

……失敗をおそれよ。面倒くさいはおそれるな」

 

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