読書2

最近は弁護士と話をする機会が多いせいか、業界についてもっと知ろうと思い、以下のふたつの本を読みました。

 

弁護士が書いた探偵ミステリー……「弁護士探偵物語」 著:法坂一広

そして、記事の表題である……「お気の毒な弁護士」 著:山浦善樹

今回は、後者についての感想です。

 

著者である山浦善樹先生は、1974年弁護士登録。歴50年の大ベテランです。

その経歴でなによりユニークなのは、いわゆる街弁でありながら、最高裁判所の裁判官になったこと。

マチベンってなに?」「最高裁判官ってスゴいの?」

……順を追って説明していきましょう。

 

最高裁判所の裁判官はとてもスゴい

法律に詳しくなくとも、最高裁判所の名は聞いたことがあるはず。

裁判という司法システムにおける、日本最高峰の部署です。

そこの裁判官ですから、選びに選ばれた特別な人達がその職に就きます。

そのあたりは、説明すると長いし、一般的には関心の薄い部分かもしれないので、割愛します。

ただ……

 

・日本にたった15名

・内閣総理大臣が指名、天皇陛下が任命

・検察官・弁護士・行政官・法学者などの法律職から厳選

・著者いわく「当代きっての賢人たち」

 

……これだけで「なんかスゴい!」と伝わるはず。

 

で、街弁って?

派手な集団訴訟や企業法務ではなく、個人の依頼人や中小企業の問題を解決する、庶民的な弁護士。

それが街弁です。

(つまり街の弁護士の略。町弁とも。私のイメージ的に「街」を使いました)

 

対となるのがブル弁。

雄牛(BULL)のごとくガツガツ好戦的な弁護士……と思いきや、どうもブルジョワ弁護士の略らしいです。

こちらは、特許訴訟や国際商取引、M&Aなんかの華やかな業務がメイン。

 

弁護士は成功報酬が基本なので、動くマネーがデカいほど、実入りに直結します。

なにしろ、持って生まれた優秀な頭脳を、効率よく使って高難度資格を取得、わざわざ弁護士という道を選んだ人々。

はっきり高収入や高ステータスを目指すのが当然……みたいなところがあるようです。

多くの弁護士は、派手な企業法務や大型案件を望み、どちらかといえば街弁は、その競争からあぶれた二流三流か、物好き変わりダネ……

あくまで外部からの印象ですが、そんな立ち位置であるように見受けます。

そんな、街の弁護士という身分でありながら、最高裁判所裁判官という、特別な存在に選ばれた……

それが、著者の売りであり、この「お気の毒な弁護士」という本の特筆すべきポイントです。

 

お気の毒な街弁、お気の毒な探偵

ところで、我々個人探偵も、言ってしまえば街弁そのものです。

少なくとも私は、「マチベン」の話を聞いたとき、強いシンパシーを覚えました。

派手さもなければ、高収入でもない、でも、やりがいは強く、本当の意味で人から感謝もされる。

そんな街の私立探偵である自分に、私は強い満足感とやりがいを感じています。

 

お気の毒弁護士である山浦先生もまた、街弁という存在に、強い誇りと満足感を持っているようでした。

(そこに関心を惹かれ、この本に興味を持ったわけです)

 

「お気の毒な弁護士」……この、やたらと印象的なタイトルは、著者が弁護士資格を取ったとき、世話になっていた住職からかけられた言葉だそうです。

それはおそらく、禅問答の類か、遠回しな皮肉。

何が気の毒なのか。その真相については、著者自身の解釈に委ねられ、そしてけっきょく、文中でも明言はされていないようでした。

 

私の解釈は、こうです。

「お坊さんからすれば、ブル弁なんて存在そのものが残念な人種だし、もしそこを目指し、あぶれてしまったとしたら(街弁)、それはそれでお気の毒」

あるいは別の見方、

「庶民派弁護士という、個人のトラブルにどっぷりと浸かり、それを解決しなくちゃならない、険しく難しい道を選んだことへの同情心」

……どちらかと言う気がします。

 

ちなみに私自身も、同業者やスタッフに「自分を安く売りすぎている」「もっと高収入・高ステータスを目指せそうなのにもったいない」と言われることがしばしば。

でも、私自身は現状に満足していますし、ブル探なんて望んでもいません。

そういう意味では、私もまた「お気の毒な探偵」と言えるかも……。

 

異端ではあっても、破天荒ではない

さてかんじんの読書感想です。

読んで私が一番強く感じた印象は、著者が変わり者弁護士であることに、強い自意識を持っているということ。

そして、探偵である自分から見ると、「言うほど変わり者には見えなかった」ことです。

 

たしかに弁護士としては、ある種異端だったのかもしれません。

けれども、作中で語られるその「変わり者エピソード」は、それほどぶっ飛んだものでもなく、言ってしまえば普通の部類。

異端ではあっても、けっして破天荒ではない……

それは、弁護士という、枠のしっかりした世界で生きている以上、仕方のないことかもしれません。

 

この本は、最高裁判所の裏話を期待する人破天荒な弁護士の痛快な生き様を見たい人にとっては、ちょっと肩透かしな内容です。

むしろ、街弁の一生を丹念に追いかけ、その意識や信念を、克明に記した本と言えるでしょう。

そういった部分に関心がある人であれば、きっと楽しめるはず。

 

弁護士は異端に憧れる?

私が、探偵という常識外れの世界に居るからかもしれません。

「自分は変わり者だ」……そうひんぱんに口にする著者を見て、こう思いました。

弁護士って、もしかして異端とか変わり者に憧れてる……?

 

きっちりしたルールの世界に生き、子供の頃から学業優秀、大人や教師の言うことを素直に聞いて、レールの上を猛スピードで走り、大変な資格試験勉強をやり抜いた、エリート中のエリート……

探偵から見ると、弁護士とはそういう存在です。

ある意味横並びで、型にハマっていて当然で、そんなエリートたちの心のどこかに

「自分はちょっと異端で居たい」「ほかの弁護士とは一味違う、変わり物と見られたい」

……そんな反骨心が見え隠れするのかもしれません。

 

日ごろ多くの弁護士と話していて、私はなんとなくそんな印象を受けました。

そしてこの【お気の毒な弁護士】を読み、その印象はさらに強まりました。

それは、「優等生が、ほんのちょっぴりアウトローに憧れる……」みたいな意識なのかもしれませんね。

 

弁護士1