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職業柄、スパイ映画が好きです。
たいていは、「こんな強力な組織のバックアップがあれば」とか「こんな優秀なチームで仕事が出来ればな」とか、
憧れと羨望が入り混じった気持ちで鑑賞しています。
とくに映画に登場する数々のスパイ・ガジェット。
プロの探偵から見ても、のどから手が出るほど欲しい機材です。
「ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」
2011年の映画「ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」
ご覧になられた方も多いのではないでしょうか。
序盤に、エージェントの男性(ハナウェイ)が、駅でターゲットを捕捉するシーンがあります。
ブダペストの美しい町並みが印象的なシーン。
列車から降りた大量の乗客の中からターゲットの姿を捕捉するため、エージェントが使用するのが、「顔認証コンタクトレンズ」
見た人物を自動的に認証し、リンクしたデータベースにより、瞬時に判別するこのコンタクトは、無数の人混みからターゲットを発見するのに、非常に有効な道具でした。
あの張り込み位置だと、一人で乗客全員の下車をカバー出来ないだろ……というプロのツッコミは置いとくとして、
「searching…」とカッコ良くつぶやきながらターゲットを探すシーンは、見応え充分。
あのシーンを見た探偵は、おそらく全員が「このコンタクトが欲しい!」と心底願ったはず。
プロの探偵にとって、これと似たシチュエーションは、日常茶飯事だからです。
違うのは、現実の探偵の場合、便利な顔認証コンタクトなんて使えず、すべて自分の眼でサーチしなくてはならないこと。
電車から降りてくる対象者を捕捉、確認、そして追跡。
これは探偵の日常そのものです。
ターゲットの特定【面取り】
写真などから、調査ターゲットを特定する作業を「面取り」といいます。
調査能力がもっとも出る部分のひとつと言えるでしょう。
探偵の調査における最重要ポイントです。
なぜなら、この「面取り」……非常にシビア。
もしここで特定に失敗し、間違った人物をターゲットと勘違いしてしまった場合……
ぜんぜん関係ない人物を尾行してしまうことになり、本物のターゲットはロストしてしまいます。
もちろんやり直しはききません。
ゴースト・プロトコルで、エージェントが捕捉したターゲット男性は、非常に特徴的な風貌でした。
私なら、同じ状況でもコンタクトレンズ無しで探せると思いました。
しかし、現実の調査の現場では、特徴的な対象者ばかりではありません。
おまけに写真というのがクセモノで、たいていの場合、それしか特定の材料がないのに、
「それだけに執着して固定観念を持ってしまうと、じっさいはぜんぜん雰囲気が違っている」
……なんてことがあって、足元をすくわれます。
【面取り】に必要なもの
私は、面談の際に依頼人から対象者の写真を受け取る時、必ず……
①「身長」……正確な数字よりもパッと見の印象が大事。大きい、小さい、普通など。
②「体格」……これも同様。太い、細い、普通など。
③「メガネの有無」……依頼者はあまり気にしないことが多いが、印象をガラリと変えてしまう。
④「帽子をかぶる習慣」……メガネと同様。
についても、詳しく尋ねます。
「
」と名が付いていますが、じっさいは顔だけに注目するのではありません。むしろ、誰かを特定するのに重要なのは、「姿勢」「歩き方」「骨格」ひいていえば全体の「雰囲気」です。
私たちプロの探偵は、これだけの情報を瞬時に処理して、ターゲットを特定します。
アナログですが、ある意味では職人芸と言えるでしょう。
【面取りのコツ】
昔、同業者から頼まれて、探偵のタマゴの指導をしたことがありました。
博多駅近くの巨大なビジネスビルから無数に吐き出される似たようなスーツの人、人、人……
みんな同じように見えるサラリーマンの中から、ズバリ対象者を特定した私を、彼らは「超能力」と言いました。
もちろん、そんな都合の良いものではありません。必死なだけです。
「コツを教えてください!」と駆け出し探偵たちに請われましたが、口で説明出来るものでもありません。
自分でも不思議ですが、調査対象者を見たら「ああ、この人だ」と直感で分かるだけです。
しかし、時として、「よく似た別人かもしれない」という迷いが生じることもあります。
それでもけっきょくは、迷いを振り切り、自分の能力と判断を信じ、決断することになります。
調査の現場では迷っている暇なんてないからです。
もっとも難しく大変な「面取り」
でもそれは、ただの「起点」。調査の始まりに過ぎません。
もし「面取り」で失敗したら、調査自体が成り立たず、始まる前に終わってしまうことになります。
【求ム! ひみつ探偵ガジェット】
千件を超える現場。千人を超える対象者。
自分を信じてターゲットを見定め、それが常に正しかったからこそ、
私や同業者たちは、「プロの探偵」を名乗ることが出来たのです。
……でも。
……それでも。
『顔認証コンタクト』なんてものがあれば! ……と願わずにはいられません。