県外の探偵からの「業務提携」ウラ事情
さいきん、妙に他県から「もり探偵さんと業務の提携がしたい」という申し出があります。
ふつうに断ります。探偵業界における業務提携とは、
「安く下請けしてください」
とだいたい同義だからです。
性格の悪い深読みに見えるかもしれませんが、探偵業界はそもそも諜報を生業とする人々の、油断ならない世界。
言葉の裏読みができないと、生き延びることはできません。
(それか、一時間3000円で大手の調査会社から良いように使われるだけです)
さて、「業務提携したい」というとつぜんの申し出を聞きながら、会話のウラを読んでいると、こんな理由が透けて見えました。
「さいきん博多のホテル代が高ーい! 高いどころか、満室で思ったようにとれない! これだと、せっかく他県から福岡の案件を取っても、現地に調査員ハケンする宿泊経費だけでアシが出る!」
……ようは、福岡のホテルが高くなり過ぎて、出張調査が高くつく。なら最初から、福岡の探偵に丸投げしてしまえ、という話みたい。
福岡での探偵業務に、どうして他県の探偵が絡み、宿泊経費の問題になるのか。そこには依頼人さまには見えないウラ事情があるのです。
福岡県での探偵の調査が、どう処理されているか
福岡県における探偵ニーズがどのように処理されているか。以下のようなケースがあります。
①地元福岡の探偵が引き受ける (正道)
②全国ネットの調査会社の福岡支部が手がける (一見正道だが…)
③東京・大阪などの本社が請け、本社の人間を福岡に派遣する (変化球)
④他県の調査会社が、実態のない福岡支部で依頼を取る (反則)
それぞれのケースを見ていきましょう。
ケース①地元福岡の探偵が引き受ける
福岡に本拠を置き、福岡の調査員を抱えた地元業者が、福岡在住の依頼人の案件をこなす。
言うまでもなく、当たり前のことです。
しかし探偵業は、この当たり前が当然になされない、イビツな業種。
具体的に言うと、
「福岡には無人の事務所を設置。依頼の電話は、転送して代表番号にて受け、契約や調査のときだけ県外から人を派遣する」
……こんなことがまかり通ってしまうのです。
これが弁護士などであれば、エリアごとの支部にきちんと登録し、それ以外の場所で営業することはできません。
(業務として他県での仕事を行うことは可能です。ようは、福岡の弁護士が、大分や熊本にも個人事務所を出しちゃダメということ)
どうしてこのようなことが起きるのか。
それは、探偵の依頼ニーズという【パイ】がそもそも少ないことに起因します。
そう。一般人が思っている以上に、探偵への依頼は決して多くありません。
おおざっぱなたとえ話で恐縮ですが、とある県の一ヶ月の探偵依頼のニーズを、かりに一般の方が100と想像しているとしたら、実際はおそらく30くらいではないかと思います。
一月に30しかない探偵のニーズを、たくさんの業者が取り合っているこの現実。
けれど、これを3つの県に拡大させれば、(非常に単純な計算ですが……)3倍の90になります。
だから、商圏を拡大し、依頼網を広げ、根こそぎ仕事を取る戦略が、ビジネス的に有効なのです。
しかし、その戦略はあくまで業者サイドの一方的な都合によるもの。
この不自然な業態は、さまざまな理由から、依頼人さまにマイナスを生じさせます。
以下、それも含めて見ていきましょう。
ケース② 全国ネットの調査会社の福岡支部が手がける
形態としては、ケース①とそれほど変わりません。
福岡は主要都市のため、全国展開している調査会社は、たいてい支部を置いています。
ただ、一見全国ネットの調査会社のまっとうな福岡支部でも、実態はケース④の「名前だけの支部」ということが多いのが問題なのです。
ケース③ 東京・大阪などの調査会社が請け、調査員を福岡に派遣
他県の探偵が、他県の探偵として、福岡の調査依頼を受けることがあります。
とくに多いのは東京なので、それを例に解説します。
もっとも多いケースは、「東京の調査会社が、東京で、福岡の調査を引き受ける」というもの。
変形として、「福岡に出張に行く対象者の調査を、東京で引き受ける」というパターンもあります。
どちらにせよ、東京から調査員が福岡に行くという形態。
この場合、出張にかかる交通費・宿泊費は、経費として請求されます。
このケース、やたらと料金が高額になるという難点があります。
調査料金が20万円だとしたら、そこに本来必要のない経費( 交通費や宿泊費など) が加算されるからです。
たとえば、調査員2名を福岡に派遣し、2・3泊させようものなら、軽く15~20万はかかることになります。
調査料金20万 + 出張経費 = 40~50万
よほどその探偵社に頼みたい理由がないと、まったくムダと言えるでしょう。
しかし、母体が東京にあるような大手に依頼するほうが安心……という依頼人にとっては意味のある選択です。
問題は、「他県の探偵が、福岡に無人の支部を置き、福岡の探偵として依頼を受けるケース」です。
ケース④ 他県の探偵が、名前だけの支部を置き、福岡の探偵として依頼を受ける
正直言って、いまもっとも福岡の探偵業界に悪い影響を与えている業態と感じます。
こちらも東京の探偵を例にとってみましょう。
この場合、やはり調査員を派遣せねばならないのですが、福岡の探偵と思って依頼した人に「東京からの出張経費ください」なんて言えません。
だから、うまく調査料金に上乗せしないと赤字になるわけです。
調査料金20万で受任 ⇨ 経費だけで20万かかる ⇨ 赤字
だから …… 調査料金50万で受任する
とうぜん、こんなやり方だと、福岡の地元探偵に頼んだ場合より、無意味に、ずっと高くつくことになります。
福岡の商圏は、他県の探偵にとってヨダレが出るほど魅力的っぽい
他県の探偵にとって、福岡はそれはそれは魅力的な商圏らしく、こんな反則的ビジネス展開で進出してきている業者は、少なくありません。
でもさすがに、依頼人さまも最近は勉強していますから、こんなビジネスが、いつまでも通用するものでもなさそうです。
(そりゃ、地元の探偵に頼めば20万の案件に50万とか言われればねえ……)
だから、他県からの進出業者は、次善の策として
「福岡の調査は 、(中抜きして) 仕事に困ってそうな福岡の個人探偵に (安く) やらせよう!」
と考えたのでしょう。だからやたらと「業務提携しませんか」連絡が来るようになった、というのが私の読みです。
もり探偵事務所は、仕事に困っている個人探偵ではありませんが、ネットで検索した他県の探偵からすると、そんなふうに見えたのでしょう。
それで「うちの下請けしませんか (業務提携しましょ)」と打診してきたのだと思われます。
15年以上続く「業務提携・業務協力」という名の下請け構造
元請け・下請け・中抜きの構造は、探偵調査業者だけに限らない、さまざまな業種が抱える問題です。
大きな予算が動く(しかも依頼人の身銭じゃない)BtoBであれば、下請け・孫請け構造も、ある程度は仕方ないこともあるでしょう。
けれど、BtoC……個人の依頼人が探偵に依頼する業態で、中抜きが行われたとしたら、依頼人さまにとってムダでしかありません。
現場の調査員にしても、過酷な調査業務に対する充分な報酬がなければ、健全な業態とは言えませんし、手だって抜くかもしれません。
元請けが請けた依頼を、零細探偵事務所、名もなき個人探偵にやらせる……
これはもう15年以上も前から探偵業界が抱える宿痾です。
しかし、集客力のない個人探偵に「一時間3000円なんかで、他県の探偵が取った依頼やっちゃダメよ」なんて言っても、なかなか厳しいのが現実。
さらにここにきて、「福岡のホテルが高い問題」により、ますます元請け・下請けのイビツな構造が加速するとしたら……
探偵業界の健全化への道は、まだまだ遠いということかもしれませんね。